表現と著作権
1. 著作物の定義
(1) 「著作権法」は、「著作物」並びに「実演」、「レコード」、「放送」及び「有線放送」に関し「著作者の権利」及びこれに「隣接する権利」を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする(著1条)。
実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者にも、著作隣接権による保護が与えられる。
(2) 「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著2条1項1号)。
小説・脚本・論文
講演
音楽
舞踏・無言劇
絵画・版画・彫刻・塑像
建築
地図・図面・図表・模型
映画
写真
プログラム
(3) 二次的著作物
著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物を二次的著作物という(著2条1項11号)。
原著作物の内容がそのまま残っている部分(再生部分)があること
(4) 共同著作物
二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものを共同著作物という(著2条1項12号)。
(5) 編集著作物(データベース以外)
編集物で、その素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。(著12条)。
編集著作物は、編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
(6) データベースの著作物
データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは、著作物として保護する(著12条2)。
「データベース」とは、論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう(著2条1項10号3)。
タウンページなど
2. 著作物性
(1) 思想・感情の創作的表現
表現が創作的であることが必要であって、アイディアは著作権法の対象ではない。
記録媒体に保存されている必要はない。
新規性を有する必要はない。
(2) 文芸、学術、美術、音楽に該当すること
純粋美術と同一視し得るもの ⇔応用美術
独創性・美的特性を備えた書体
キャラクターの絵・キャラクターが登場する漫画 ⇔キャラクターそのもの
(3) 対象外の著作物
憲法・法律
行政機関の告示
裁判所の判決・決定・命令・審判等
これらの編集物・翻訳物で、行政機関の作成するもの
3. 著作者
(1) 著作者とは、著作物を創作する者をいう(著2条1項2号)。
編集担当者、漫画家のアシスタント、単なる資金提供者は、著作者とは言えない。
(2) 無方式主義(著17条)
著作者は、著作者人格権及び著作権を取得する上で、いかなる方式の履行をも要しない。
(3) 著作者の推定(著14条)
次の者は、反証がない限り、著作者として推定する。
著作物の原作品に、氏名、周知の変名を著作者として表示した者
著作物の公衆への提供・提示の際に、氏名、周知の変名を著作者として表示した者
(4) 共同著作物の著作者
著作物を共同で創作した者それぞれが全員、共同著作物(分離できない物に限る)の著作者になる。すなわち、著作財産権・著作人格権は全員の共有になり、譲渡には同意が、権利の行使には合意が必要となる。
(5) 職務著作の著作者(著15条)
法人等の発意に基づき、その法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
プログラム著作物以外には、さらに「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という条件が加わる。
自然人で無くても著作者になりうる。
法人等は、法人、代表者、使用者を含む。
(6) 映画の著作物の著作者(著15条)
映画の著作物の著作者は、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし職務著作の規定が優先する。
映画監督、プロデューサーなど(ただし映画会社の従業員では無いこと)。
その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者は除外される。(これらは、二次著作である映画では無くて、原作の著作者になる。原作者が二次著作の著作者で無いだけで、著作財産権は有する。)
監督が映画製作者に、製作に参加することを約束している場合は、映画製作者に著作権が帰属する。
放送事業者が製作する場合、放送に関する権利・複製権は、放送事業者に帰属する。
4. 著作者の権利
(1) 著作者人格権
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない(著59条)。
著作者の死によって消滅するが、死後も侵害することはできない。
@ 公表権(著18条)
著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有する。
公表する場合、その時期、方法を決定する権利を有する。
未公表の著作物を著作者に無断で公表すると、公表権の侵害になる。
当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。
A 氏名表示権(著19条)
著作者は、その著作物の原作品に、その氏名を著作者名として表示するか否かを決める権利を有する。
公表する場合、その表示方法を決定する権利を有する。
著作者に無断で氏名を変更すると、氏名表示権の侵害になる。
当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。
ただし、BGMなど、人格的利益を害することなく、公正な慣行に反しない場合は氏名の表示を省略できる。
B 同一性保持権(著20条)
作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
著作者に無断で内容を変更すると、同一性保持権の侵害になる。
他人の著作物を利用する場合は、そのまま引用する(著32条)。
(2) 著作財産権
著作者に無断で著作材遺産権を行使することはできない。
@ 複製権(著21条)
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。厳密に同一でなくても複製になる。
印刷・複写・録音・録画など有形的に再製することが複製にあたる。
私的使用ならば許諾なしでも複製できる(著30条)。
ただしデジタル方式の複製は、著作者に補償金を支払わなければならない。
A 上演権・演奏権(著22条)
著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。
B 上映権(著22条2)
著作者は、その著作物(映画その他)を公に上映する権利を専有する。
C 公衆送信権(著23条)
著作者は、その著作物について、公衆送信を行う権利を専有する。
著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
放送権(テレビ・ラジオ)、有線放送権、自動公衆送信権(インターネット)について、規定している。
D 口述権(著24条)
著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。朗読など。
E 展示権(著25条)
著作者は、美術・未発行の写真の著作物を、原作品により公に展示する権利を専有する。
市販された複製品は、展示権の侵害に当たらない。
F 譲渡権(著26条2)
著作者は、その著作物(映画以外)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
著作者からいったん譲渡された場合は、その後の譲渡は譲渡権侵害にはならない(消尽)。
G 貸与権(著26条3)
著作者は、その著作物(映画以外)をその複製物の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
H 頒布権(著26条)
著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布、譲渡、貸与する権利を専有する。
映画の著作物には消尽規定が無い。
I 翻訳権、翻案権等(著27条)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する(二次的著作物)。
譲渡にあって、特掲として明示されていない限り、翻訳権・翻案権は、譲渡前の権利者に留保される。
J 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著28条)
著作者の許可を得て作成された二次的著作物については、元の著作者と二次的著作物の著作者がともに同一の種類の権利を専有する。
K 名誉・声望保持権
5. 著作隣接権
(1) 実演家
@ 氏名表示権
A 同一性保持権
B 録音・録画権
(ワンチャンス主義:映画の著作物に関しては、いったん許諾すれば、その後の録音・録画権は消滅する。)
C 放送権・有線放送権
D 送信可能化権
E 譲渡権(第一譲渡で消尽)
F 貸与権(販売後1年のみ。その後は貸レコード業者から報酬を受ける権利。)
(2) レコード製作者
@ 複製権
A 送信可能化権
B 譲渡権(第一譲渡で消尽)
C 貸与権(販売後1年のみ。その後は貸レコード業者から報酬を受ける権利。)
(3) 放送事業者・有線放送事業者
@ 複製権
A 再放送権
B 送信可能化権
6. 著作権の保護期間
著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる(著51条1項)。
保護期間の計算は、次の年の1月1日から起算される(著57条)。
(1) 大原則(著51条2項)
著作権は、著作者の「死後50年」を経過するまでの間、存続する。
(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者の死後50年。)
(2) 著作者が無名の著作物、変名の著作物(著52条)
その著作物の「公表後50年」を経過するまでの間、存続する。
ただし、「公表後50年」までに著作者の「死後50年」を経過したことが確認された場合、著作者の「死後50年」経過時に消滅する。
また、変名が周知の場合、実名登録がされた場合、変名・実名が著作者として公開された場合も、著作者の「死後50年」とする。
(3) 法人その他団体名義の著作物、職務著作(著53条)
その著作物の「公表後50年」を経過するまでの間、存続する。
ただし、その著作物がその創作後50年以内に公表されなかつたときは、その「創作後50年」とする。
また、変名・実名が著作者として公開された場合は、著作者の「死後50年」とする。
(4) 映画の著作物(著54条)
その著作物の「公表後70年」を経過するまでの間、存続する。
ただし、その著作物がその創作後70年以内に公表されなかつたときは、その「創作後70年」とする。
(5) 継続的刊行物の著作物(著54条)
「最後に公表された時」から、「公表後50年」を経過するまでの間、存続する。
連載小説などが3年間休載した場合は、継続が切れる。
(6) 著作隣接権(著101条)
実演家:実演や録音を行った時から50年を経過するまでの間、存続する。
レコード製作者:音を固定してから始まり、発行してから50年を経過するまでの間、存続する。
放送事業者・有線放送事業者:放送を行った時から50年を経過するまでの間、存続する。
※ 法人の解散などで国庫に帰属する場合は、その時点で著作権が消滅する。
※ 外国を本国とする著作権で、本国の保護期間が終わった場合は、その時点で消滅する。
7. 著作権の登録制度
著作権の成立には方式の履行を要件としない。
しかし、著作権を登録しないと第三者に対抗できない。
@ 実名登録
A 第一発行年月日の登録
B 第一公表年月日の登録
C プログラムの創作年月日の登録(創作後6ヶ月以内)
D 著作権の登録
8. 国際条約
ベルヌ条約:無方式主義
万国著作権条約:無方式主義と方式主義の橋渡し
9. 著作権以外の権利
肖像権:プライバシー権
パブリシティ権:芸能人・有名人など
商品化権:キャラクターの使用