商標権侵害
1. 商標権の侵害
(1) 成立条件
ある商標権が有効に存在し、正当な権限のない者が、登録商標と同一・類似の商標を、その指定した商品役務と同一・類似の範囲で使用する。
この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう(商2条3項)。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
(2) 商標権の効力が及ばない範囲(商26条)
次のような商標は、制限されずに、商標を自由に使える。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
商標権の設定登録後、不正競争の目的で用いた場合は適用しない。
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。次号において同じ。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標
四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
五 商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標
(3) 侵害とみなす行為
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす(商37条)。
二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であって、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
三 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
五 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
六 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
七 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
八 登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
2. 商標権侵害への対応
(1) 商標侵害訴訟の提起
商標権者は商標権を侵害された場合には、商標侵害訴訟を提起することができる。
(2) 差止請求(商36条)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
(3) 損害賠償請求
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709条)。
損害金額を立証することが困難な場合には、裁判所が相当な範囲内で決定する。
侵害者に故意又は過失がない場合には、損害賠償請求できない。
侵害の事実を知った時から3年以内、または侵害行為があってから20年以内に請求する。
(4) 不当利得返還請求
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、これを返還する義務を負う(民法703条)。
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない(民法704条)。
侵害者に故意・過失があるかどうかは関係なく、返還請求できる。
侵害の事実を知ってから、10年以内に行う。
(5) 信用回復措置請求
故意又は過失により商標権又は専用使用権を侵害したことにより商標権者又は専用使用権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、商標権者又は専用使用権者の業務上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。
(6) 刑事罰(商78条)
商標権又は専用使用権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行った者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(7) 設定の登録前の金銭的請求権(商13条2)
願人は、商標登録出願をした後に当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後商標権の設定の登録前に当該出願に係る指定商品又は指定役務について当該出願に係る商標の使用をした者に対し、当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる。
商標権の設定の登録の日から3年以内、または侵害行為があってから20年以内に請求する。
3. 侵害警告への対応
(1) 侵害に当たるか否かの調査・検討
独自に調査し、侵害を否定し得る理由を検討する。
@ 警告者が正当な権利者か
A 商標権侵害になるか否か
B 先使用権があるか
警告者の出願より前に、不正競争目的以外で、先使用していて周知となっていた場合は、継続して使用できる。
(2) 侵害に当たらないと判断した場合
@ 警告者に対し、侵害を否定し得る理由を明示して、侵害に当たらない旨を主張する。
A 警告者が納得せず、相手が商標侵害訴訟を提起した場合、侵害に当たらないということを主張・立証する。
(3) 侵害に当たると判断した場合
@ 不使用取消審判
継続して三年以上、商標権者、使用権者のいずれもが、各指定商品・役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品・役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる(商50条)。
ただし、書体の変更や、縦書き横書きの変更、ひらがなカタカナの変更は、使用とみなす。
立証は商標権者によって行われる。
商標権者の駆け込み使用は認められない。
不使用取消審判請求登録日までの損害賠償請求は免れない。その日以降の損害賠償請求は免れる。
A 無効審判
無効理由があれば、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる(商46条)。
ただし除斥期間経過後(5年)は、無効審判の請求を制限する(商47条)。→過誤登録であっても、5年経過後は無効にできない。
請求できるのは利害関係人のみ(侵害警告を受けた者も含まれる)。
⇔特許法ではだれでも請求できる。
無効となれば、商標権は最初からなかったものとして、遡及的に消滅する。損害賠償請求を免れる。
B 登録異議申立(商43条)
取り消し決定がされると、商標権は最初からなかったものとみなされる。損害賠償請求を免れる。
商標掲載公報の発行日から2カ月以内に限られる。
誰でも請求できる。
C 過去の侵害に対する賠償金を払う。
D 侵害行為を中止する。
E 対象商品が、侵害とならないように、商標変更する。
F 相手方に、使用許諾について交渉する。
4. 不正使用取消審判
品質の誤認や他人の業務との混同を生ずる使用をした場合
分割移転された場合に、不正競争の目的で、混同を生ずる使用をした場合
パリ条約同盟国の代理人が、不当に商標登録を受けた場合