商標登録出願
1. 商標調査
(1) 商標調査の目的
@ 登録商標と同一・類似する商標の出願を回避する。
A 他者の商標権を侵害する商標の無断使用を防止し、差止請求や損害賠償の対象となることを回避する。
B 他人の商標を調査し、ネーミングを考える上での参考にする。
特許電子図書館等のデータベースで調査する。
商標の類似判断
同じ類似群に属する商品・役務において、商標に同一・類似の物があるか否かを調査する。
商品・役務の類似判断
異なる商品・役務区分に属していても、類似する商品・役務が存在する可能性がある。
(2) 同一類似の商標を発見した場合
@ 商標権の更新状況を調べる
登録が更新されていなければ、商標出願登録される。
A 不使用取消審判
商標権者・使用権者が継続して3年以上、国内で同一の登録商標を使用していなければ、取消審判を請求できる。
B 不正使用取消審判
商標権者・使用権者の不正使用を発見して、取消審判を請求する。
C 無効審判
商標権者・使用権者の無効理由を発見して、取消審判を請求する。
D 登録商標権者との交渉
類似範囲の商標権を譲渡してもらう。
商標権の使用を許諾してもらう。
2. 出願
(1) 一商標一出願の原則
商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない(商6条1項)。
指定は、政令で定める商品及び役務の区分に従ってしなければならない(商6条2項)
複数の商標を出願するときは、商標ごとに出願する。
一出願で区分ごとに区分けをすることで、多区分の出願をすることができる(一出願多区分制)。
(2) 選択性
すでにある文字・図形であっても、登録されていなければ、登録を受けられる。
登録されていない商標は先願の地位を有さないので、出願人は自由に選択できる。
3. 商標登録出願に必要な書面
商標登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に必要な書面を添付して特許庁長官に提出しなければならない(商5条)。
「商標登録出願人」の氏名(名称)・住所
商標登録を受けようとする商標
指定商品・指定役務並びに商品・役務の区分
商標が立体的形状からなる商標(立体商標)について商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない(商5条2項)。
特許庁長官の指定する文字(標準文字)のみによって商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない(商5条3項)。
団体商標の商標登録を受けようとする者は、出願人が団体商標に適格を有する法人であることを証明する書面を特許庁長官に提出しなければならない(商7条3項)。
地域団体商標の商標登録を受けようとする者は、出願人が適格団体であることを証明する書面と、地域名との密接関連性を証明する書面を特許庁長官に提出しなければならない(商7条2 4項)。
防護標章登録の出願を受けようとする者は、基本となる商標登録の登録番号を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない(商68条1項)。
4. 方式審査
(1) 基本的事項が揃っていれば、出願日が認定される。
基本的事項に不備がある場合、補完命令がなされる。手続補完書で解消しなければならない。
(2) 方式的な不備がなければ、実体審査に移る。
方式的な不備がある場合、補正命令がなされる。手続補正書で解消しなければならない。
5. 出願公開
特許庁長官は、商標登録出願があったときは、速やかに出願公開をしなければならない(商12条2)。
6. 実体審査
所定要件を満たすか否かを審査する。出願審査の請求は必要ない。
(1) 審査官は、政令で定める1年6カ月以内に拒絶の理由を発見しないときは、商標登録をすべき旨の査定をしなければならない(商16条)。
(2) 審査官は、商標登録出願が拒絶理由のいずれかに該当するときは、その商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない(商15条)。
識別性
不登録事由
一商標一出願
地域団体商標の要件違反
先願規定違反
条約の規定違反
外国人の権利能力
取消後の再登録禁止
商標権者であつた者は、商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から五年を経過した後でなければ、再登録を受けることができない(商51条2項)。
7. 拒絶理由通知
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、商標登録出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない(商15条2)。
出願審査の結果、拒絶理由が明白であっても、すぐに拒絶査定されるわけではなく、拒絶の理由が通知される。
出願人は、意見書の提出や手続きの補正等の措置を講ずる。
8. 拒絶理由通知への対応
拒絶の理由を通知に対し、指定された期間内に意見書を提出する。
意見書には、拒絶理由に対する反論、願書の補正、出願の分割により拒絶理由が解消されたことを記載する。
(1) 願書の補正
商標登録出願、防護標章登録出願、請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる(商68条40)。
拒絶理由通知後の補正は、意見書提出期間内にしなければならない。
補正の内容を記載した手続補正書を提出する。
「出願の要旨」を変更するものであるときは、その補正が却下される(商16条2)。文字の一部削除など。
(2) 出願の分割
出願人は、二以上の商品・役務を指定商品・役務とする出願の一部を分割して、新たな商標登録出願とすることができる。(商10条)。
分割した新たな出願は、さかのぼって、もとの出願の時にしたものとみなす(遡及効)。
商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限る。
(3) 出願の変更
出願内容の同一性を保持しつつ、出願形式を変更する。
通常の商標登録出願、団体商標登録出願、地域団体商標登録出願、防護標章登録出願をそれぞれの間で変更する。
商標登録出願について査定又は審決が確定した後は、することができない。
もとの商標登録出願は、取り下げたものとみなす。
(4) 他人の先登録の排除
他人の商標権を引用した旨の拒絶理由の場合には、他人の商標権を消滅させることで、拒絶理由を解消できる場合がある。
登録異議申立、無効審判請求、取消審判請求
意見書において、措置を講じたことを記載する。
(5) 他人との交渉
他人の承諾、譲渡、放棄によって、拒絶理由を解消できる場合がある。
意見書において、拒絶理由が解消されたことを記載する。
9. 拒絶査定不服審判
拒絶理由通知において示された拒絶理由が解消されない場合、登録することができない旨が通知される(拒絶査定)。
拒絶をすべき旨の査定を受けた者は、その査定に不服があるときは、その査定の謄本の送達があつた日から三月以内に拒絶査定不服審判を請求することができる(商44条)。
10. 商標権の設定登録から消滅まで
(1) 商標権の発生と存続
商標権の存続期間は、設定の登録の日から十年をもって終了する(商19条1項)。
(2) 商標権の設定登録の手続き
商標登録をすべき旨の査定若しくは審決の謄本の送達があつた日から三十日以内に納付すべき登録料の納付があつたときは、商標権の設定の登録をする(商18条2項)。
(3) 商標権の更新登録の申請
商標権の存続期間は、商標権者の更新登録の申請により「更新」することができる(商19条2項)。
更新登録の申請は、商標権の存続期間の満了前六月から満了の日までの間にしなければならない(商20条2項)。
更新登録の申請と同時に納付すべき登録料の納付があったときは、商標権の存続期間を更新した旨の登録をする(商23条)。
商標権者が更新登録の申請をすることができる期間内に、その申請をしないときは、その商標権は、存続期間の満了の時にさかのぼって消滅したものとみなす(商20条4項)。
防護標章登録の更新登録の出願については、審査に付される(商65条4)。
更新登録申請の際に、商標登録出願に係る区分の数を減ずる補正をすることができる。
11. 外国への出願
@ 通常出願
外国に直接出願する。
実体審査を行わない無審査主義の国も存在する。⇔審査主義
実際に使用しなければ登録を受けられない先使用主義の国も存在する。⇔登録主義
A 優先権を伴う出願(パリルート)
日本において基礎となる出願を行い、6か月以内に外国への優先権の主張を伴う出願をする。この場合、最初の出願日に外国へ出願したものとして取り扱われる。
出願様式は各国の制度に従う。
B マドリッド協定議定書(マドリッドプロトコル)による国際出願
日本で商標登録出願した者は、日本国特許庁への登録出願を基礎とした、国際登録出願を行うことができる。そして、実体審査を受けることなく、国際登録されて、後で国際登録日が付与される。
指定した外国へ、国際事務局から出願書類が送付され、各国審査で12カ月以内に拒絶通知がなければ、その国で商標権が発生する。
ただし国際登録日から5年以内に日本での商標権が消滅した場合、国際登録も消滅する(セントラルアタック)。
1つの国際登録出願で、全ての締結国に出願したものとみなされる。
出願書類は英語で記載する。
国際登録の保護期間も10年で、何度でも更新できる。
ただし、優先日から30カ月以内に外国へ翻訳文を提出する。
各国ごとに出願様式をそろえる必要がない。