意匠権侵害

  

1. 意匠権の侵害

(1)  成立条件

@ ある意匠権が有効に存在し、正当な権限のない者が、登録意匠または類似する意匠を業として実施する(類似の範囲に抵触する)。

A 他人の先願登録意匠を利用してなされた後願意匠を、権利者の許諾なしに実施する。

ž  デザインが同じでも、物品が異なる場合は侵害にはならない。

ž  全部実施することが成立条件なので、組物の意匠のうちの一つの物品の実施は侵害にならない。

 

(2)  意匠権の効力が及ばない範囲

@ 試験又は研究のためにする意匠の実施

A 実施権者に許諾した範囲

B 後願意匠と利用関係にある、先願意匠の権利者の実施

 

(3)  間接侵害

直接的には意匠権侵害とならないが、意匠権侵害を誘発する行為。

次に掲げる行為は、当該意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなす(38)

ž  業として、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の「製造にのみ用いる物(専用品)」の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

ž  登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為

特許法と異なり、主観的要件(「専用品=のみ品」以外)による間接侵害は規定されていない。

 

 

2. 意匠権侵害への対応

(1) 意匠侵害訴訟の提起

意匠権者は意匠権を侵害された場合には、意匠侵害訴訟を提起することができる。

 

(2) 差止請求(37)

意匠権者又は専用実施権者は、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

秘密意匠の意匠権への侵害に対しては、意匠公報に掲載されるべき事項を記載した、特許庁長官の証明を受けた書面を提示した後でなければ、差止請求することができない。

 

(3) 損害賠償請求

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709)

ž  他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する(40)。ただし、秘密意匠については適用されない。

ž  その意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

ž  損害金額を立証することが困難な場合には、裁判所が相当な範囲内で決定する。

ž  侵害者に故意又は過失がない場合には、損害賠償請求できない。

ž  侵害の事実を知った時から3年以内、または侵害行為があってから20年以内に請求する。

 

(4) 不当利得返還請求

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、これを返還する義務を負う(民法703)

ž  悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない(民法704)

ž  侵害者に故意・過失があるかどうかは関係なく、返還請求できる。

ž  侵害の事実を知ってから、10年以内に行う。

 

(5) 信用回復措置請求

故意又は過失により意匠権又は専用実施権を侵害したことにより意匠権者又は専用実施権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、意匠権者又は専用実施権者の業務上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。

 

(6) 刑事罰(69)

ž  意匠権又は専用実施権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

ž  間接侵害の場合には、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 

 

3. 侵害警告への対応

(1) 侵害に当たるか否かの調査・検討

独自に調査し、侵害を否定し得る理由を検討する。

@ 警告者が正当な権利者か

A 意匠権侵害になるか否か

B 正当権限があるか

C 秘密意匠の場合、警告の際に所定の書面が提示されたか

 

(2) 侵害に当たらないと判断した場合

@ 警告者に対し、侵害を否定し得る理由を明示して、侵害に当たらない旨を主張する。

A 警告者が納得せず、相手が意匠権侵害訴訟を提起した場合、侵害に当たらないということを主張・立証する。

 

(3) 侵害に当たると判断した場合

@ 無効審判

無効理由があれば、その意匠登録を無効にすることについて審判を請求することができる(48)

ž  無効審判はだれでも請求できる。⇔商標法では利害関係人のみ

ž  無効となれば、意匠権は最初からなかったものとして、遡及的に消滅する。賠償責任を免れる。

 

A 過去の侵害に対する賠償金を払う。

B 侵害行為を中止する。

C 対象実施品が、意匠権侵害とならないように、デザイン変更する。

D 意匠権者と、実施許諾について交渉する。

 

※ 特許法における、訂正審判に該当する審判は存在しない。

 

 

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