意匠登録出願
1. 先行意匠情報の調査
先行意匠情報調査によって、
@ 公知意匠と同一または類似する意匠の出願を回避する。
A 他者の意匠権を侵害する意匠の実施を防止し、差止請求や損害賠償の対象となることを回避する。
B 他社のデザイン傾向を把握し、自社のデザインコンセプトの決定に役立てる。
意匠の権利情報については、登録原簿を閲覧する。
意匠公報・審査情報は、特許庁ホームページや特許電子図書館で調査することができる。
「公知例」として、外国の意匠公報や各社の商品カタログが審査の引用例になることも考えられるので、調査するべきである。
2. 出願
意匠登録出願は、経済産業省令で定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない(意7条)。
「一意匠一出願の原則」→例外:「部分意匠」、「組物の意匠」、「関連意匠」、「動的意匠」
二以上の物品名を記載した場合は登録を受けることができない。
3. 意匠登録出願に必要な書面
(1) 願書(意6条1項)
「出願人」の氏名(名称)・住所、「創作した者」の氏名・住所を記載する。
「意匠に係る物品」を記載する。
その意匠に係る物品の材質・大きさが理解しがたい場合は、図面では表現できない形態面の特徴を「意匠の説明」の欄に記載しなければならない(意6条3項)。
(2) 図面
意匠登録出願においては、図面は必ず添付しなければならない。
正投影図法・等角投影図法・斜投影図法による六面図で記載する。
意匠が明瞭に表される場合には、図面に代えて、写真・ひな形・見本で提出できる(意6条2項)。
(3) 特徴記載書
従来には見られない新しいデザインや、図面では特徴を把握できない場合には、出願人は自らの主張を記載した特徴記載書を提出できる。
権利範囲の確定には影響しない。
4. 部分意匠による出願
(1) 部分意匠制度では、物品の一部分に施された意匠を実施する権利を専有できる。
部分意匠の効力は、当該部分を含む完成品全体に及ぶ。
組物についての部分意匠は認められない。
全体意匠の掲載された公報が発行される前に、同一出願人が部分意匠出願すること。
(2) 出願書面
願書に「部分意匠の欄」を設ける。
意匠にかかわる物品の欄に、全体の物品名を記載する。
図面において、部分意匠にかかわる部分を特定する。
5. 組物の意匠による出願
(1) 組物の意匠では、多物品でも一意匠として登録を受けられ、集合物が有する全体の統一感をについて保護を受けることができる。
経財産業省令が組物と定める56品目に該当しなければならない。
組物全体に統一感がなければならない。
組物の意匠権は、個々の構成部品にまでは及ばない。
(2) 出願書面
意匠にかかわる物品の欄に、経財産業省令が定めた物品名を記載する。
それぞれの構成物品ごとに図面を作成する。
6. 関連意匠による出願
(1) 関連意匠制度では、同じデザインコンセプトから創作されたバリエーションの意匠について保護を受けることができる。
本意匠の公報発行前に、同一人物から類似の意匠の出願があった場合に限る(意10条)。
本意匠の意匠権について専用実施権が設定されているときは、関連意匠登録を受けることができない(意10条2項)。
関連意匠の意匠権の存続期間は、その本意匠の意匠権の設定の登録の日から二十年をもって終了する(意21条2項)。
関連意匠の意匠権の移転・専用実施権の設定においては、本意匠と関連意匠の意匠権を分離することはできない。
ただし、通常実施権の許諾には制約が無い。
(2) 出願書面
いずれかの意匠を「本意匠」に、類似する意匠を「関連意匠」として出願する。
関連意匠の願書には、本意匠の表示をする。
7. 動的意匠による出願
(1) 動的意匠制度では、意匠にかかわる物品がその機能に基づいて変化する場合、一出願で変化の前後における権利取得を可能とする(意6条4項)。
(2) 出願書面
意匠の説明の欄に動的意匠である旨を記載する。
変化の前後が分かるような図面を記載する。
8. 方式審査
出願が規定された方式にのっとっているか、所定の手数料を払っているかを審査する。
方式に不備があれば補正命令がなされる。
手続補正書により不備が解消されれば、実体審査に移り、解消できなければ出願が却下される。
9. 実体審査
実体審査では、意匠が所定の要件を満たすか否かを審査する。審査の請求は必要ない。
10. 公開
意匠登録があったときは、意匠権者の氏名・住所、願書・図面が意匠公報に掲載される(意20条3項)。
→秘密意匠制度
出願公開制度は無く、登録後の公開となる。
11. 秘密意匠の請求(公開の秘密)
(1) 秘密意匠制度では、意匠登録出願人は、意匠権の設定の登録の日から三年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができる(意14条)。
3年以内であれば、登録後であっても延長・短縮ができる。
秘密期間中に差止請求権を行使する場合には、所定の書面を提示して警告した後でなければならない。
侵害警告を受けた者は意匠の開示を請求できる。
損害賠償請求では「過失の推定」が受けられない。
登録後の意匠公報には、形式的事項のみが掲載される。秘密期間の経過後には実質的内容が掲載される(意20条4項)。
(2) 請求の書面
出願と同時に、または登録料納付時に、秘密意匠の適用を受けたい旨の書面を提出する(意14条2項)。
特別の手数料を納付しなければならない(意67条1項)。
12. 拒絶理由通知
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、意匠登録出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
実体審査の結果、すぐに拒絶査定されるわけではなく、拒絶の理由が通知される。
出願人は、意見書の提出や手続きの補正等の措置を講ずる。
13. 拒絶理由通知への対応
拒絶の理由を通知に対し、指定された期間内に意見書を提出する。
意見書には、拒絶理由に対する反論、願書・図面の補正、出願の分割により拒絶理由が解消されたことを記載する。
(1) 願書・図面の補正
意匠登録出願、請求その他意匠登録に関する手続をした者は、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる(意60条3)。
拒絶理由通知後の補正は、意見書提出期間内にしなければならない。
補正の内容を記載した手続補正書を提出する。
「意匠の要旨」を変更してはならない。出願当初と同一の範囲内で補正を行わなければならない。(物品の変更・デザインの変更は「要旨」の変更となる。)
「意匠の要旨」を変更するものであるときは、その補正が却下され、補正前の内容で審査される(意17条2)。→「補正却下決定不服審判」「補正却下後の新出願」
(2) 出願の分割
意匠登録出願人は、意匠登録出願が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、二以上の意匠を包含する意匠登録出願の一部を分割して、新たな意匠登録出願とすることができる。 (意10条2)。
一意匠一出願の原則に違反する場合にのみ適用される。
(3) 出願の取り下げ・放棄
14. 補正却下への対応
補正が「意匠の要旨」を変更するもの審判で認められ却下された場合には、
(1) 却下処分を不服として、「補正却下決定不服審判」を請求することができる(意47条)。
(2) 「補正却下後の新出願」をすることができる。
新出願は、手続補正書の提出の日に登録出願されたものとみなされる(意17条3)。
なお、意匠登録後に意匠の要旨を変更する補正をした場合も、手続補正書の提出の日に登録出願されたものとみなされる(意9条2)。
15. 拒絶査定不服審判
拒絶理由通知において示された拒絶理由が解消されない場合、登録することができない旨が通知される(拒絶査定)。
拒絶をすべき旨の査定を受けた者は、その査定に不服があるときは、その査定の謄本の送達があつた日から三月以内に拒絶査定不服審判を請求することができる(意46条)。
16. 意匠権の設定登録から消滅まで
(1) 登録査定
審査官は、意匠登録出願について拒絶の理由を発見しないときは、意匠登録をすべき旨の査定をしなければならない(意18条)。
(2) 意匠権の発生と存続
意匠権の存続期間は、「設定の登録の日」から二十年をもって終了する(意21条)。
⇔ 特許権では権利の起算日が「出願日」
(3) 意匠権の設定登録の手続き
第一年分の登録料の納付があつたときは、意匠権の設定の登録をする(意20条2項)。
17. 外国への出願
@ 通常出願
外国に直接出願する。
A 優先権を伴う出願(パリルート)
日本において基礎となる出願を行い、6か月以内に外国への優先権の主張を伴う出願をする。この場合、最初の出願日に外国へ出願したものとして取り扱われる。
出願様式は各国の制度に従う。
ヘーグ協定は「無審査登録主義」を前提とした制度で、日本は加盟していない。