創作と意匠権
1. 意匠の定義
(1) 意匠法は、工業デザインを保護することにより、新たな需要を生み出すような優れたデザインの創作を奨励し、工業の発達に寄与することを目的とする(意1条)。
(2) 「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。(意2条1項)。例:本の装丁、服飾デザイン、アイス
「物品性」「形態性」「視覚性」「美感性」のすべてを満たさなければならない。
@ 物品性:デザインの対象となる工業製品(市場を流通する有体動産)が存在すること
「物品の一部」の場合は、独立して取引される対象(部品)であること
気体・液体・粉状物は該当しない。
単なるイラストは該当しない。
A 形態性:物品そのものの特徴や性質から生じる形態であること
「形状」は必須の構成要素
「模様」「色彩」は付随的な構成要素
B 視覚性:全体の形態が、肉眼で視認できること。
C 美感性:視覚を通じて美感を訴えること。何らかの美的処理が施されていること。
(3) 意匠登録の要件として、「工業上利用性」「新規性」「創作非容易性」「先願性」を満たさなければならない。
(4) 審査主義
意匠登録出願後の審査により、所定の要件を満たしていると認められる意匠のみ、「意匠権」が付与される。
2. 工業上利用性
意匠登録の要件として、工業上利用することができる意匠に限られる(意3条)。
工業的技術で同一物を量産できなければならない。(伝統工芸も含まれる。)
⇔特許法・実用新案法では「産業上利用することができる」ものが保護対象。
3. 新規性
(1) 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる(意3条)。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において「公然知られた意匠」
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、「頒布された刊行物に記載された意匠」又は「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠」
三 公然又は公開となった意匠に「類似」する意匠
新規性の判断基準は、「意匠を出願した時」である。
「公然」となると、新規性を喪失する。
「同一」でなくても「類似」していれば新規性は否定される。
新規性の判断対象は、意匠のみ。意匠以外からの引用では、新規性は否定されない。
(2) 意匠の新規性喪失の例外(意4条)
新規性を喪失した意匠について、次の場合、必要な手続きを行うことにより、例外的に意匠を受けられる(新規性喪失の例外の適用)。
a. 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して、新規性を喪失した場合
販売や見本の頒布であっても適用を受けることができるので、特許法・実用新案法よりも新規性喪失の例外の適用範囲が広い。
b. 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して、新規性を喪失した場合
新規性を喪失した日から6カ月以内に、例外の適用の旨を出願する。
出願後30日以内に、適用を受けられることを証明する書面を提出する。
4. 創作非容易性
(1) 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が日本国内又は外国において「公然知られた形状・模様・色彩」に基づいて「容易に意匠の創作をする」ことができたときは、その意匠については、意匠登録を受けることができない。
創作非容易性は、意匠登録出願時に判断される。
創作非容易性を判断する対象は、「意匠」のみならず、有名な建造物や自然物などの「公知の形状」から引用されたものを含む。⇔新規性を判断する対象は「意匠」のみ。
ただし、新規性の喪失の例外が適用された意匠は除く。
特許発明の「進歩性」に相当する。
海外のカタログなどからも引用される。
(2) 創作が容易である意匠
@ 意匠の構成要素の一部を他の意匠に置き換えた場合
A 複数の意匠を組み合わせて一つの意匠を構成する場合
5. 先願主義
(1) 同一又は類似の意匠について異なった日に二以上の意匠登録出願があったときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。(意9条)。
先願の判断基準は、「意匠登録を出願した日」である。
同じ日に出願された場合は平等に扱う。
(2) 先の出願は後の出願が意匠を受けることを阻止できる効力を持つ(後願排除効)。
同日に出願された場合、協議により決められた出願だけが意匠登録を受ける。
協議不成立ならば、どの出願も意匠登録されない。
同一出願人の類似する意匠についても適用を受ける。→関連意匠制度
(3) 意匠公報に掲載された先願意匠の一部と同一又は類似であるときは、その意匠については、前意匠登録を受けることができない(意30条2)。
完成品と部品、組物と構成物品の関係をあらわす。
同一出願人が、同一対象について複数の出願をする場合は、小さいものから順に出願するか、または同日に出願する。
なお、意匠登録出願は、特許・実用新案の先後願の判断対象に該当しない。
6. 登録を受けられない意匠
@ 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠(意5条1号)
道徳に反するもの、国の尊厳を害するもの
A 「他人」の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠(意5条2号)
「自己」の業務には適用されない。
B 物品の機能を確保するために不可欠な「形状」のみからなる意匠(意5条3号)
「必然的形状」からなる技術的思想の創作は、特許法や実用新案法の保護対象となる。
「準必然的形状(JIS等の標準化規格に定められた形状)」についても登録を受けることができない。
(ただし、JIS規格などの互換性のある形状に基づき機能を発揮する場合のみ、登録を受けられない。パラボラアンテナは受けられないが、事務用紙は受け得る。)
7. 意匠権の活用・実施権
(1) 実施権の種類
意匠にかかる物品の「製造」を「実施」と規定する。⇔特許法では「生産」
@ 通常実施権(意28条)
意匠の実施が認められる。
意匠権者による「許諾」で権利が発生する。
従業者が職務創作について意匠を得た場合、使用者は「無償の通常実施権」を有し、無償で意匠を実施できる。
「先使用による通常実施権」(意29条)
意匠登録出願の際に、意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者に認められる。
「先出願による通常実施権」(意29条2)
意匠登録出願し査定・審決の結果、拒絶された意匠の出願者には、後の出願によって制限されないように、先出願による通常実施権が規定されている。
A 専用実施権(意27条)
他者による意匠の実施を排除できる。
意匠権者でさえ意匠を業として実施できなくなる。
意匠権者による「設定の登録」で権利が発生する。
関連意匠の意匠権についての専用実施権は、本意匠及びすべての関連意匠の意匠権について、同一の者に対して同時に設定する場合に限り、設定することができる。
(2) 意匠権の移転
本意匠及びその関連意匠の意匠権は、分離して移転することができない(意22条)。
(3) 意匠権の譲渡
意匠権者は、意匠権を第三者に譲渡し対価を得ることができる。
8. 意匠の範囲
意匠権者は、業として登録意匠及びこれに「類似する意匠」の実施をする権利を専有する(意23条)。
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面・写真・ひな形・見本により現わされた意匠に基づいて定めなければならない(意23条1項)。
(1) 類似の判断
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする(意24条2項)。
物品が同一であって、形態が類似する場合。
物品が類似であって、形態が同一または類似する場合
(2) 他人の登録意匠との関係
自己の意匠の中に他人の登録意匠を取りこんでいる出願でも、意匠登録を受けられる(利用関係)。しかし、実施に当たっては、先願意匠権者の許諾を得なければならない。
後願の類似範囲に先願登録意匠があれば拒絶される。
後願の類似範囲に先願の類似範囲があっても、その重複については審査されない。
意匠法では、同一と類似に差は無いので、類似の実施許諾も可能 ⇔ 商標法では同一≠類似
(3) 他人の特許権・実用新案権・商標権との関係
意匠登録の実施にあたって、他人の特許権・実用新案権・商標権に抵触する場合がある。
9. デザイン保護
意匠法:工業的デザインを保護する。
著作権法:工業的デザインは保護されない。
ただし、応用美術は意匠法・著作権法双方の保護を受け得る。
不正競争防止法:他人の商品の形態を模倣した商品を販売する行為を禁止する。
意匠登録されていない意匠でも保護される。
意匠登録が認められるまでの間
意匠権消滅後
意匠権を取得していない意匠