特許権侵害

  

1. 特許権の侵害

(1) 成立条件

@ ある特許権が有効に存在し、正当な権限のない者が、当該特許権の技術的範囲に包含される発明を実施する。

A 他人の特許発明を利用してなされた利用発明を、権利者の許諾なしに実施する。

 

(2) 特許権の効力が及ばない範囲(69)

@ 試験又は研究のためにする特許発明の実施

A 単に日本国内を通過するに過ぎない船舶・航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置

B 特許出願の時から日本国内にある物

C 医薬を調剤する行為

 

(3) 間接侵害

直接的には特許侵害とならないが、特許権侵害を誘発する行為。

 

次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす(101)

@ 特許が「物の発明」についてされている場合において、

ž  業として、「その物の生産にのみ用いる物(専用品)」の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

ž  「その物の生産に用いる物」であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

ž  その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

 

A 特許が方法の発明についてされている場合において、

ž  業として、「その方法の使用にのみ用いる物(専用品)」の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

ž  「その方法の使用に用いる物」であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

ž  その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

 

※ 「その物の生産に用いる物」については、日本国内において広く一般に流通しているものは除かれる。

 

一旦、正規ルートで購入すれば、転売しても生産に使っても、特許権侵害にはならない(権利の消尽)。

 

 

2. 特許権侵害への対応

(1) 特許侵害訴訟の提起

特許権者は特許権を侵害された場合には、特許侵害訴訟を提起することができる。

ž  東京または大阪地方裁判所に特許侵害訴訟の専属管轄がある。

ž  侵害者がどのようにして特許権を侵害したか立証する必要がある。

立証を容易にするために、

@ 物を生産する方法の発明について、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する(104)

A 特許侵害者が侵害行為を否認するときは、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない(1042)

B 侵害者に、立証・損害の計算に必要な書類の提出を命ずることができる(105)

 

(2) 差止請求(100)

ž  特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その「侵害の停止又は予防」を請求することができる。

ž  特許権者又は専用実施権者は、侵害の行為を組成した物・生産物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

ž  侵害者に故意・過失があるかどうかは関係なく、差止請求できる。

 

(3) 損害賠償請求

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709)

ž  他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する(103)

ž  その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(1023)

ž  損害金額を立証することが困難な場合には、裁判所が相当な範囲内で決定する。

ž  侵害者に故意又は過失がない場合には、損害賠償請求できない。

ž  侵害の事実を知った時から3年以内、または侵害行為があってから20年以内に請求する。

 

(4) 不当利得返還請求

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、これを返還する義務を負う(民法703)

ž  悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない(民法704)

ž  侵害者に故意・過失があるかどうかは関係なく、返還請求できる。

ž  侵害の事実を知ってから、10年以内に行う。

 

(5) 信用回復措置請求(106)

故意又は過失により特許権又は専用実施権を侵害したことにより特許権者又は専用実施権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、特許権者又は専用実施権者の業務上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。

 

(6) 補償金請求(65)

出願公開の後に発明を業として実施した者に対して、特許権の設定が登録された後、3年以内に補償金を請求することができる。

 

(7) 刑事罰

ž  特許権又は専用実施権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(196)

ž  侵害者の使用者には、三億円以下の罰金が課せられる(20111)

 

 

3. 侵害警告への対応

(1) 侵害に当たるか否かの調査・検討

独自に調査し、侵害を否定し得る理由を検討する。

@ 他人の主張する特許権が有効か

A 他人の主張する特許権の技術と自己の技術が同一のものか

B 特許権者から許諾・譲渡・移転を受けていないか

C 特許権の効力が及ばない範囲に該当しないか

 

(2) 侵害に当たらないと判断した場合

@ 警告者に対し、侵害を否定し得る理由を明示して、侵害に当たらない旨を主張する。

A 警告者が納得せず、相手が特許侵害訴訟を提起した場合、侵害に当たらないということを主張・立証する。

B 差止請求権・損害賠償権が存在しないことを確認する訴えを提起する。

C 他人の特許権に無効理由がある場合には、特許無効審判を請求する。

いったん登録され成立した特許について、当該特許を遡及的に無効とする審判を請求する。

ž  特許庁に審判を請求する。

ž  特許権者は、訂正審判や、無効審判における訂正請求で対抗できる。

 

(3) 侵害に当たると判断した場合

@ 過去の侵害に対する賠償金を払う。

A 侵害行為を中止する。

B 対象製品が、当該特許発明の技術的範囲に属さないように仕様変更する。

C 相手方に、当該特許の実施権の設定について交渉する。

 

 

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