化学電池
1. 電池の基礎
(1) イオン化傾向
大(負極側):Li+,K+,Na+,Al3+,Mn2+,Zn2+,Fe2+,Ni2+,Pb2+,H+,Cu2+,Hg2+,Ag2+:小(正極側)
(2) ファラデー定数:
1ファラデー=電子1molが持つ電気量=電子1個の電気量×アボガドロ数
(3) 用語
活動物質(作用物質)
正極活物質:酸化剤
負極活物質:還元剤
電解質:両局間のイオンを運ぶため、イオン導電性が求められる。水溶液系電解質、有機溶媒系電解質、イオン液体(常温溶融塩)、ポリマー電解質、固体電解質など。
セパレータ:酸化剤と還元剤が内部短絡するのを防ぐ。短絡を防ぐために電子を通さず、反応を進行させるためにイオンを通過させる必要がある。
導電材:電気伝導性が低い活物質に混ぜて使う。
集電体:活物質から電気を取り出す導電体。端子。
乾電池:電解液をゲル化させた電池。⇔湿電池
自己放電:内部にできる局部電池で放電すること。
電池寿命:活物質の劣化・ドライアウト・ショートがある。
放電特性:放電電圧の経時変化。
2. 電池の歴史
@ ボルタ電池
正極:銅
負極:亜鉛
電解液:希硫酸
正極反応式:
負極反応式:
(1) 亜鉛が亜鉛イオンとして希硫酸に溶け出す。(酸化反応)
(2) 電子が負荷を通して、亜鉛電極から銅電極へ移動する。
(3) 銅表面で電子が水素イオンと結びついて、水素ガスを発生する。(還元反応)
問題点
水素ガスが銅電極表面を覆い尽くし、それ以上反応が進まなくなる。
水素ガスが水素イオンに戻り電圧降下する。(分極作用)
→対策:減極剤(過酸化水素水、にクロム酸カリウム水溶液、二酸化マンガン、空気)を用い、水素ガスを酸化し水を生成させる。
A ダニエル電池
素焼きの板(多孔質セパレータ)を用いて、電解液を正極側と負極側で仕切る。
素焼きの板は、硫酸イオンを通すが、銅イオンは通さない。
正極:銅
負極:亜鉛
正極側電解液:硫酸銅水溶液
負極側電解液:硫酸亜鉛水溶液
正極反応式:
負極反応式:
(1) 亜鉛が亜鉛イオンとして硫酸亜鉛水溶液に溶け出す。(酸化反応)
(2) 電子が負荷を通して、亜鉛電極から銅電極へ移動する。
(3) 硫酸銅水溶液中の銅イオンが電子と結びついて、銅として析出する。(還元反応)
(4) 硫酸銅水溶液から硫酸亜鉛水溶液へ、硫酸イオンが移動する。それによって、両電解液で電気的中性が保たれる。
改善点
反応に水素イオンが関係しないので、水素ガスの問題が発生しない。
問題点
亜鉛イオンが、正極側電解液ですぐに飽和してしまう。
B ルクランシェ電池
素焼きの入れ物(多孔質セパレータ)を用いて、正極材料を電解液と仕切る。
正極:二酸化マンガン+炭素
負極:亜鉛
電解液:塩化アンモニウム水溶液
正極反応式:
負極反応式:
(1) 亜鉛が亜鉛イオンとして塩化アンモニウム水溶液に溶け出す。(酸化反応)
(2) 電子が負荷を通して、亜鉛電極から炭素電極へ移動する。
(3) 塩化アンモニウム水溶液中のアンモニウムイオンと、電子を受け取った二酸化マンガンが反応し、オキシ水酸化マンガンとアンモニアが生成される。(還元反応)
改善点
二酸化マンガンが減極剤として働き、水素ガスの発生を防ぐ。
ダニエル電池のように電解液領域を2分割に仕切っているわけではないので、亜鉛イオンがすぐに飽和しない。
3. 一次電池
化学反応が非可逆的な電池。一度放電してしまうと再使用できない。
@ マンガン乾電池
ルクランシェ電池とほぼ同じ構造。最も一般的な乾電池。
正極:二酸化マンガン
負極:亜鉛
電解液:塩化亜鉛(塩化アンモニウム)
公称電圧:1.5V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
負極活物質(亜鉛)が外周を覆う。
正極側集電体に炭素棒。
特徴
大電流放電での容量低下が大きい。
放電特性において、時間とともに電圧が低下していく。
しばらく休ませると容量が回復する。
連続的に使用するよりも、間欠的に使う用途に適する。
低価格。
A アルカリ乾電池(アルカリマンガン電池)
マンガン乾電池の二倍の電流パワーを持つ大電流・長時間用乾電池。
マンガン乾電池と同じ正極・負極活物質を用いている。
正極:二酸化マンガン
負極:亜鉛
電解液:水酸化カリウム水溶液+酸化亜鉛
公称電圧:1.5V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
または、次式で表わす場合もある。
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
正極活物質(二酸化マンガン)が外周を覆う(インサイドアウト構造)。
鉄ケースがそのまま正極側の端子となる。
負極側集電体にメッキ処理真ちゅう棒。
防爆構造を採用している。
特徴
マンガン乾電池よりも電気容量が大きい。
大電流放電での容量低下が小さい。
放電特性において、電圧低下は小さく、寿命が長い。
大電流で連続使用しても効率のよい放電特性を示すので、大電流用途に適する。
電解液が強アルカリ性のため、液漏れが起こりやすい。
新型アルカリ乾電池“EVOLTA”(Panasonic製)
オキシライド乾電池の後継として、正極に黒鉛とオキシ水酸化チタンを添加した最新型アルカリ乾電池が発売されている。「世界一長持ちする単三乾電池」。
B ニッケル系一次電池(ニッケルマンガン乾電池・オキシライド乾電池)
従来型アルカリ乾電池の置き換えとして発売されていた乾電池。
出力・容量で従来型アルカリ乾電池の1.5倍の性能を有する。
現在は前述の新型アルカリ電池に移行した。
正極:オキシ水酸化ニッケル+二酸化マンガン
負極:亜鉛
電解液:水酸化カリウム水溶液+酸化亜鉛
公称電圧:1.5V(初期1.7V)
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
構造的にはアルカリ乾電池とほぼ同じ。
特徴
アルカリ乾電池よりも電気容量が大きい。
放電特性において、電圧低下は小さく、維持電圧が高いので、アルカリ乾電池よりも寿命が長い。
大・中電流を必要とする機器に適する。
低電流機器だと、従来型アルカリ電池よりも寿命が短くなる。
初期電圧が高いため、使用機器によっては注意を要する。
※ニッケル亜鉛電池
ニッケル系一次電池の一種として過去に販売されていたが、現在は中止された。
正極:オキシ水酸化ニッケル
負極:亜鉛
電解液:水酸化カリウム水溶液+酸化亜鉛
公称電圧:1.5V(初期1.7V)
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
C 水銀電池
特性の優れた電池。
水銀を使うため国内では製造中止された。
正極:酸化水銀(U)
負極:亜鉛
電解液:水酸化カリウム水溶液+酸化亜鉛
公称電圧:1.35V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
特徴
放電特性に優れており、放電末期まで電圧がほとんど変化しない。
寿命が長い。
D 酸化銀電池
特性の優れた一次電池。
高い電圧を完全放電まで維持する。
正極:酸化銀(U)
負極:亜鉛
電解液:水酸化カリウム(水酸化ナトリウム)水溶液+酸化亜鉛
公称電圧:1.55V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
特徴
放電特性に優れており、放電末期まで電圧が変化しない。
低温放電特性にも優れている。
寿命はそれなりに長い。
エネルギー密度が高い。
大電流用途に適する。
銀が高価。
E 空気電池(空気亜鉛電池)
空気中の酸素を反応に使う電池。水銀電池の代替として使われる。
正極:酸素
負極:亜鉛
電解液:水酸化カリウム(水酸化ナトリウム)水溶液
公称電圧:1.4V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
空気中の酸素を使用でき、その分正極の亜鉛を増やせるため、大容量になる。
特徴
放電特性に優れており、放電末期まで電圧が変化しない。
寿命がとても長い。
エネルギー密度が非常に高い。
補聴器など、低負荷用途に使われる。
F リチウム電池
エネルギー密度が高く、電圧も高い電池。
(1) 二酸化マンガンリチウム電池
正極:二酸化マンガン
負極:リチウム
電解液:有機溶媒+リチウム塩
公称電圧:3V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
(2) フッ化黒鉛リチウム電池
正極:フッ化黒鉛
負極:リチウム
電解液:有機溶媒+リチウム塩
公称電圧:3V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
正極には、二酸化マンガン、フッ化黒鉛のほか、酸化銅、塩化チオニル(SOCl2)、二酸化硫黄などが材料として使われる。
特徴
放電特性は、比較的平坦で、電圧の変化は小さい。
寿命が長い。
エネルギー密度が高い。
有機溶媒系電解液を使用しているので、低温動作可能。
自己放電が少ない。
高電圧用途として使われる。
高価。
4. 二次電池
化学反応が可逆的な電池。充電・放電が繰り返し可能。
二次電池は一次電池よりも自己放電率が高い。
充電末期に、負極で水素が副生しやすく、正極で酸素が発生しやすい。
放電容量:完全充電状態から放電終止電圧までに放電した電気量で表わされる。
アンペア時容量[Ah]。
放電効率:放電電気量に対する充電電気量の比率。蓄電池の充放電反応の可逆性を示すのに用いられる。アンペア時効率、ワット時効率など。
フロート充電:定電圧充電。常時充電機器と並列接続して、充電すること。浮動充電。
トリクル充電:定電流充電。自然放電を補うために、負荷から切り離して、商用電源から微小電流を流して、満充電状態を維持すること。
@ 鉛蓄電池
古くから使われている二次電池。
起電力は1.8〜2.1Vで、これは水の分解電圧1.23Vよりも高い。電池内では分解反応が遅くなるが、長時間置いておくと反応が進行して放電してしまう。
放電容量を10時間放電率で規定する。放電終止電圧は1.8V。
アンペア時効率は約55%、ワット時効率は約75%である。
放電時に水を生成するので、電解液の比重が下がる。満充電時の比重は1.2〜1.3、放電終止時の比重は1.1。
浮動(フロート)充電は、2.15V程度で充電する。
正極:二酸化鉛
負極:鉛
電解液:希硫酸
公称電圧:2V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
特徴
アルカリ蓄電池よりも放電効率が高いとされる。
メモリー効果がない。
過放電に弱く、放電終止電圧以上に放電すると、サルフェーションを生じる。
寿命が短い。
自己放電率が大きく、放置に弱い。
※サルフェーション
長時間放電や多数回の充放電によって、両電極の活物質が、元に戻らない結晶化した白色硫酸鉛に変化すること。電池として性能劣化し、寿命が短くなる。
防ぐには、フロート充電させておく。
解消するには、過充電するか、薄い希硫酸中で長時間放電する。
A アルカリ蓄電池(ニッケルカドミウム蓄電池)
ユングナー電池とも呼ばれる。
起電力は1.33〜1.35V。
放電容量を5時間放電率で規定する。
充電時に水を生成し、電解液の比重が下がる(鉛蓄電池の逆)。
正極:オキシ水酸化ニッケル(水酸化第2ニッケル)
負極:カドミウム
電解液:水酸化カリウム
公称電圧:1.2V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
または、水酸化第2ニッケルとして次式で表わされる場合もある。
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
堅牢で振動や衝撃に強い。
負極活物質を正極より多く使っているので、過充電して発生した酸素を、負極の水素と反応させて水を生成し、内圧上昇を防ぐ。そのため過充電に強い。
特徴
鉛蓄電池よりも電圧変動率が高く、ワット時効率が低いとされる。
鉛蓄電池よりも内部抵抗が高く、アンペア時効率が低いとされる。
過充電・過放電に強い。
急速充放電が可能。
鉛蓄電池よりも繰り返し使用に強く、寿命が長い。
鉛蓄電池よりも自己放電率が小さい。
メモリー効果がある。
※ニッケル鉄電池
アルカリ蓄電池の一種。エジソン電池とも呼ばれる。
起電力は1.1〜1.38V。
正極:オキシ水酸化ニッケル
負極:鉄
電解液:水酸化カリウム
公称電圧:1.3V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
B ニッケル水素電池
ニッケルカドミウム電池の二倍の電気容量を持つ電池。
正極:オキシ水酸化ニッケル
負極:水素吸蔵合金
電解液:水酸化カリウム
公称電圧:1.2V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
水素吸蔵合金としては、LaNi5H6や、Laの代わりに安価なLm(ミッシュメタル)が使われる。
特徴
ニッケルカドミウム電池よりも電気容量が大きく、エネルギー密度が高い。
放電効率が比較的高い。
ニッケルカドミウム電池同様、過充電・過放電に強い。
急速充放電が可能。
自己放電率が比較的大きい(10%/月、ニッケルカドミウム電池より大きい)。
満充電時に大きな発熱を伴う。
メモリー効果がある(ニッケルカドミウム電池よりは小さい)。
※メモリー効果
浅い放電と再充電を繰り返した時に、見かけ上放電容量が低下する現象。原因は不明で、活物質が不動態化してしまう。完全放電させれば防ぐことができ、解消もできる。
C リチウムイオン二次電池
有機溶媒系電解液の大容量・高出力電池。
正極:リチウム含有金属酸化物
負極:炭素
電解液:有機溶媒+リチウム塩
公称電圧:3.6V
電池反応式:
正極反応式:
負極反応式:
構造
安全性確保のため、異常発熱時にシャットダウン機能のあるポリオレフィン系セパレータが使われる。
特徴
ニッケル水素電池よりも電気容量が大きく、エネルギー密度が高い。
放電効率が極めて高い。
急速充放電が可能。
出力密度が高い。
自己放電率が小さい(1%/月)。
メモリー効果がない。
サイクル寿命が長い(溶解析出反応を伴わない)。
過充電・過放電に弱いので、単セルごとの監視・保護回路が必要。
有機溶媒は可燃性であるため、安全性の確保が必要。
※金属リチウム二次電池
リチウムイオン電池の性能を上回る電池。デンドライトが課題。
正極:リチウムアルミニウム合金
負極:五酸化バナジウム、リチウムマンガン複合酸化物など
電解液:有機溶媒
電池反応式:
※デンドライト
充電時にリチウムイオンが負極表面に不均一に析出し、樹枝状に成長すること。発生すると放電時に金属リチウムが溶解しなくなるうえ、脱離して活物質機能を失い、寿命が短くなる。また、セパレータを突き破ってショートする可能性がある。
対策としては、アルミニウムとリチウムを合金化し、リチウムが特定の場所に集まらないように拡散させることが挙げられる。
5. 燃料電池
負極の水素を燃料とし、正極の酸素を酸化剤として、電気エネルギーを得る。
電解質として、リン酸水溶液、アルカリ電解液、溶融炭酸塩、イオン電導性セラミクス、イオン交換樹脂などが用いられる。
リン酸型燃料電池
(1) 多孔質でできた負極に水素が送り込まれ、触媒の働きで水素イオンと電子が生成される。
(2) 電子は負荷を通って正極に移動する。
(3) 水素イオンは電解質を通って正極側に移動する。
(4) 正極では酸素と水素イオン・電子が反応し、水が生成される。
正極反応式:
負極反応式: