インバータ(逆変換装置)
1. 単相電圧形インバータ
(1) 基本回路
直流電圧源から交流をつくる。
上下のスイッチ対は同時にはオンできない。
上下のスイッチ対は交互にオンオフされる。
(2) 実際の回路構成
スイッチを自己消弧形パワー半導体デバイスで置き換える。
デバイス単体では逆方向の電流を流すことができないので、帰還ダイオードをデバイスと逆並列接続する。
スイッチ切換時に、電流を急峻に変化させるため、電源に並列にコンデンサを接続する。
@ LR負荷の場合
L負荷が含まれるので、出力電流の立ち上がり・立ち下がりが遅れる。トランジスタが切り換わっても、出力電流の方向は、すぐには変わらない。
したがって、トランジスタ自体は、半周期でオンオフするが、出力電流が逆方向(図では上方向)に流れる期間だけは、電流が帰還ダイオードを通る。
入力電流波形と出力電力波形は相似となる。
したがって、入力電流が負の期間には、エネルギーの一部が電源に帰還される。
A CR負荷の場合
出力電流は立ち上がり・立ち下がりで急変し、波形ひずみが電圧よりも大きくなる。
すなわち、電圧形インバータでは負荷に直列にLが存在する方が望ましい。
B LCR負荷の場合
出力周波数と固有周波数が等しい場合には、正弦波になる。
このとき、出力電流がゼロの時点でスイッチングが行われ、半導体デバイスのスイッチング損失を低減できる。
2. 三相電圧形インバータ
三組の上下スイッチ対を設け、180°通電で、互いに120°位相をずらしてオンオフする。
線間電圧は、120°通電の方形波となる。
負荷相電圧について、例えば、T1・T4・T6がオンの場合、次のようになる。
LR負荷の場合は、出力電流(線電流)の立ち上がり・立下りが遅れ、正弦波に近くなる。
例えば、T1からT2に切り換わってすぐの間は、電流はD2を帰還する。
入力側からみると、電流は6倍周波数の脈動となる。
負荷中性点(n点)電圧は、インバータ出力電圧の平均値になる。
インバータ出力相電圧には、3の倍数次の高調波が含まれるので、中性点はゼロにはならない。
3. 三相電流形インバータ
スイッチング動作に関係なく一定の直流電流を流すために、電源側に直列リアクトルを接続する。
負荷がインダクタンス成分を含んでも、電流の急峻な変化に対してサージ電圧が生じないように、Y結線の相間コンデンサが並列接続される。
トランジスタには逆電圧が印加される期間が存在する。通常のトランジスタは逆耐圧を有しないので、ダイオードを直列に接続する。
スイッチングの仕方が、電圧形インバータとは異なる。
三組の上下スイッチ対は、120°通電で、互いに120°位相をずらしてオンオフする。
したがって、上下のスイッチ対が同時にオフとなる期間が存在する。
また、上側の3つは同時にオンすることは無くT1→T3→T5と連続的に通電する。下側も同様。
出力電圧波形を求めるにあたって、便宜的に線電流の差を考える。
電圧形と異なり、上側の3つ・下側の3つがそれぞれ同時にオンすることが無いので、線電流の経路は枝分かれすることなく、一本道である。
出力線間電圧の立ち上がり・立ち下がりは、並列コンデンサのために遅れ、正弦波に近くなる。
入力側からみると、電圧は6倍周波数の脈動となる。
4. 三相インバータの比較
|
三相電圧形インバータ |
三相電流形インバータ |
動作 |
電圧源 |
電流源 |
直流側(電源側) |
並列コンデンサ |
直列リアクトル |
主素子の補助 |
逆並列に帰還ダイオード |
直列に逆電圧阻止ダイオード |
スイッチング |
180° |
120° |
出力電圧(線間) |
方形波 |
ほぼ正弦波 |
出力電流 |
ほぼ正弦波 |
方形波 |
出力インピーダンス |
小 |
大 |
負荷変動に伴う 出力電圧変動 |
小 |
大 |
短絡時 |
過電流の危険 |
過電流制御が容易 |
適用例 |
電動機の一方向運転 |
電動機の4象限運転 |
5. 単相電圧形PWMインバータ
出力波形を、より正弦波に近づけるために、正弦波PWM制御を考える。
前述の単相電圧形インバータでは180°通電の方形波だったが、方形波パルスの幅は、スイッチングによって自由に変えられる(4象限チョッパ)。それを利用して、擬似的な正弦波を作る。
(1) 入力信号
正弦波指令値と三角波キャリア信号を比較し、三角波が大きい場合にT1・T3をオンする。
(2) 出力
出力電圧は、A点電位とB点電位の差になる。
(3) 局所平均
出力電圧の局所平均値をとれば、正弦波となる。
出力電流は、誘導性負荷Lを含むので、位相が遅れる。
なお、 の場合には、コンバータとしての順変換動作となる。
6. 三相電圧形PWMコンバータ
インバータの入出力を逆にすれば、コンバータとして利用でき、電力回生が可能となる。
PWM制御により、入力電流のひずみが小さく、サイリスタコンバータよりも高力率となる。
また、入力電流を任意の波形にすることができるので、無効電力・高調波の補償を行うアクティブフィルタとして用いることができる。
※ 他励式サイリスタコンバータ(整流回路)
交流電源から可変直流電圧を得る。
入力電流に多くの高調波が含まれ、入力力率が悪い。
7. 他励式インバータ(単相電流形インバータ)
サイリスタをターンオフするために、負荷と並列に転流用のコンデンサを接続する。
回路としては、サイリスタブリッジ整流回路とほぼ同じである。
すなわち、サイリスタブリッジ整流回路において、制御角を にとった場合に、出力電圧は負となる。このままでは、サイリスタに電流は流れない。
しかしこの場合でも、 となるような電池を挿入すれば、電流が流れることができ、直流電力を交流電力に変換することができる。
回路から、
電池の供給電力が交流電力に変換され、交流電源側に供給されている(インバータ動作)。
直流電源側は、電流源として動作しているので、電流形インバータである。
サイリスタの転流を変換器自身では行えず、負荷の交流電源によって転流を可能としているので、他励式インバータと呼ぶ。
これに対して、前述の各種インバータは、素子が任意のタイミングでオンオフできるので、自励式インバータと呼ぶ。