同期発電機
1. 同期機の種類と構造
(1) 構造
@ 回転電機子形:ほぼ直流機と同じ構造。特殊用途のみ。
A 回転界磁形:三相同期機として、こちらが主流。
電機子巻線は高電圧で、結線が複雑なので、導線の引出が大変。
界磁巻線は直流低電圧で、引出導線が2本で済む。
界磁形の方が丈夫な構造に作れる。
(2) 結線方式
固定子(電機子巻線)はY結線が採用される。
中性点を引き出すことができ、保護装置を取り付けられる。
Δ結線よりも絶縁電圧が低くてすむ(相電圧は線間電圧の)。
Δ結線には磁気飽和や磁束分布の不均一による第3高調波成分の循環電流が流れる。
(3) 原動機の比較
@ 水車発電機
低速なので、周速度を大きくするため回転子直径が大きくなる。
A タービン発電機
高速なので、遠心力を減らすため、直径は小さい。
低周波運転時に、タービン動翼の共振による、軸振動が発生する。
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水車 |
タービン |
据え付け |
縦軸 |
横軸 |
短絡比 |
大(0.9〜1.2) 鉄機械 |
小(0.6〜1.0) 銅機械 |
極数 |
多極 |
2または4 |
回転速度 |
低速 (100〜1000min-1) |
高速 (1500〜3600min-1) |
回転子 |
凸極 |
円筒極 |
回転子直径 |
大 |
小 |
回転子冷却 |
空気冷却 |
水素冷却 |
同期インピーダンス |
小 |
大 |
電圧変動率 |
小 |
大 |
(4) 冷却方式
タービン発電機には、水素冷却方式が採用される。
空気冷却方式との比較と比較すると、
発電機の効率が1〜2%上昇する。
密度が空気の7%なので、風損が10%になる。
発電機の大きさが25%小さくなる。
比熱が空気の14倍、表面放散率が空気の1.5倍なので、体積当たりの冷却能力が高い。
寿命が長くなる。
水素は不活性で、絶縁劣化しない。
騒音が小さい。
空気の混入を防ぐために密閉形を採るので、結果的に騒音が小さくなる。
コロナ発生電圧が高く、コロナ損が小さい。
2. 同期発電機の原理
(1) 起電力の周波数と周速度の関係
同期速度は、
よって周速度は、
:磁極数、:磁極間距離
(2) コイル一周(電機子2本分)当たりの誘導起電力
直流機と異なり、磁束密度は絶えず変化するので、磁束密度平均値は、
毎極の磁束は、
:電機子の有効長さ、:最大磁束密度
フレミング右手の法則から、電機子1本当たりの誘導起電力最大値は、
誘導起電力は交流となるので、コイル一周の誘導起電力実効値は、
(3) 交流発電機全体の誘導起電力
一相のコイル巻数を、巻線係数を とした場合、発電機一相の起電力は、
なお、線間起電力は、 となる。
3. 同期発電機の電機子反作用
電機子電流によって、主磁束の分布が悪影響を受けることを、電機子反作用と呼ぶ。
電機子反作用によって、誘導起電力が変化する。
同期機の場合、電機子電流(負荷電流)の大きさと力率の影響を受ける。
⇔ 直流機の場合は電機子電流の大きさに比例する。
ここでいう誘導起電力は、電機子反作用も考慮に入れた、内部起電力のことである。
(1) 電機子電流と無負荷誘導起電力が同相の場合
発電機端子に純抵抗負荷のみが接続された場合、電機子電流による回転磁界は、主磁束に垂直となる(交差磁化作用、横軸反作用)。
回転磁界は、発電機の回転方向で主磁束を減少させ、反対方向では主磁束を増加させる。
(2) 電機子電流が無負荷誘導起電力から90°遅れる場合
発電機端子にリアクトルのみが接続された場合、電機子電流は起電力に対して位相が遅れ、回転磁界は主磁束を減少させる(減磁作用、直軸反作用)。よって、内部起電力が減少する。
(3) 電機子電流が無負荷誘導起電力から90°進む場合
発電機端子にコンデンサのみが接続された場合、電機子電流は起電力に対して位相が進み、回転磁界は主磁束を増加させる(増磁作用)。よって、内部起電力が増加する。
自己励磁現象
無励磁の同期発電機には、残留磁気によって微小な起電力が誘導されている。
端子に容量性負荷を接続すると、起電力によって充電電流 が流れ、内部起電力が増加する。
(残留磁束による電圧発生→進み電流が流れる→電圧が上昇→進み電流が増加)
その結果、自己励磁によって、飽和曲線と充電特性曲線 との交点まで、端子電圧が上昇していく。発電機の定格電圧より大きくなると絶縁破壊の危険がある。
長距離送電線を発電機で充電する場合に起こりうる現象である。
なお、原点付近で「送電線路の充電特性曲線の傾き>発電機の無負荷飽和曲線の傾き」ならば、自己励磁現象は起こらない。
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自己励磁を起こさないための条件式は、
Ks:発電機短絡比、σ:容量発電機飽和係数 Vn:発電機定格電圧、Qn:発電機定格容量 V:線路充電電圧、Q:線路充電容量
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4. 同期インピーダンス
(1) 同期リアクタンス=電機子反作用による仮想リアクタンス+漏れリアクタンス
@ 電機子反作用による仮想リアクタンス
これを誘導起電力と分けて考えることによって、電機子反作用による誘導起電力(内部起電力)の増減を、いちいち考慮する必要が無くなる。
以降の誘導起電力が意味するところは、電機子反作用を考慮に入れない、公称誘導起電力とする。
A 漏れリアクタンス
電機子電流による磁束のうち、界磁磁束に影響を与えず、電機子巻線に逆起電力を与える。漏れ磁束によるリアクタンス。
(2) 同期インピーダンス=同期リアクタンス+電機子巻線抵抗
ただし、実際は なので、となる。
同期インピーダンスが大きいと、電機子反作用が大きい。
(3) 同期発電機の起電力
誘導起電力と端子電圧の関係は、
(4) 同期発電機の出力
抵抗を0とみなせる場合、
三相分の出力は、
内部相差角90°のとき、出力は最大になる。
発電機が負荷に電力を送るためには、内部相差角が正で、誘導起電力が、端子電圧より進んでいなければならない。
同期化力は、
内部相差角0°で同期化力は最大になる。
5. 同期発電機と力率
同期発電機では、起電力の大きさ、すなわち界磁電流を変えることによって、無効電力を調整し、力率を制御することができる。
(1) 端子電圧一定、電流一定(皮相電力一定)の場合
の大きさが一定となる。
起電力の大きさによって、力率、内部相差角、出力が変わる。
(力率1で内部相差角最大、出力最大)
@ 力率1の場合
A 増磁
遅れ電流が流れる。
B 減磁
進み電流が流れる。
(2) 端子電圧一定、出力一定(有効電力一定)の場合
の大きさが一定となる。
起電力の大きさによって、力率、内部相差角、電流が変わる。
(力率1で電流最小)。
同じ出力でも、力率1で運転することが、最も効率が良い。
6. 同期発電機の特性
(1) 特性曲線
i. 無負荷飽和曲線(If – E )
発電機を無負荷のまま定格速度で運転した場合の、界磁電流と誘導起電力の関係。同期発電機の場合、無負荷ならば、端子電圧=誘導起電力となる。
ヒステリシスループを描く。
原点付近において、界磁電流がゼロであっても残留磁気があるため、起電力はゼロにならない。
中間部分において、磁束との関係から、 となるため、比例関係となる。
飽和部分において、励磁電流が大きくなっても、磁気飽和のため、起電力は増加しなくなる。
ii. 三相短絡曲線(If – E )
中性点を除くすべての端子を短絡し、発電機を定格速度で運転した場合の、界磁電流と短絡電流の関係。
短絡すると、回路としては誘導性負荷になり、減磁作用によって磁気飽和を生じなくなるため、ほぼ直線になる。
iii.外部特性曲線(I – V )
発電機を定格速度で運転した場合に定格電圧を与える励磁電流を保ち、そのまま励磁電流を一定、速度一定、力率一定の場合の、負荷電流と端子電圧の関係。
誘導起電力は一定となるので、端子電圧は負荷の力率によって変わる。
@ 力率1の場合
同期インピーダンスのため、負荷電流が大きくなれば、端子電圧は下がる。
A 遅れ電流の場合
電機子反作用によって減磁されるので、負荷電流が大きくなれば、端子電圧は大きく下がる。
B 進み電流の場合
電機子反作用によって増磁されるので、負荷電流が大きくなれば、端子電圧は上がる。
(2) 短絡比と同期インピーダンスの求め方
@ 無負荷飽和曲線において、定格速度で運転し、端子に定格電圧を出力する場合の、界磁電流を求める。
A 三相短絡曲線において、界磁電流における、三相短絡電流をもとめる。
B 一相の同期インピーダンス
同期インピーダンスは界磁電流の値によって変わるが、普通は、定格電圧を誘導するのに必要な界磁電流の時の三相短絡電流を計算に使う。
:定格電流
D 短絡比
(3) 電圧変動率
電圧変動率は、界磁・回転速度を変更することなく、定格出力から無負荷にした時の、電圧変動の割合を表す。
無負荷時の端子電圧は、誘導起電力に等しいので、
また、電圧の関係式 から、
力率が悪くなると、同じ端子電圧でも、必要な誘導起電力は大きくなるので、電圧変動率が大きくなる。
同様の理由で、同期インピーダンスが大きくなると、電圧変動率が大きくなる。
(4) 鉄機械と銅機械
より、同じ電圧を確保するのに、磁束を増やすか(鉄機械)、巻数を増やすか(銅機械)の2形式がある。
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短絡比大 鉄機械 |
短絡比小 銅機械 |
効率 |
悪い |
良い |
同期インピーダンス |
小 |
大 |
電機子反作用 |
小 |
大 |
電圧変動率 |
小 |
大 |
はずみ車効果 |
大 |
小 |
速度変動率 |
小 |
大 |
安定度 |
良い |
悪い |
線路充電容量 |
大 |
小 |
短絡時の過渡電流 |
大 |
小 |
@ 鉄機械
大形で重いので効率が悪い。界磁や電機子が大きく、鉄を多く使うので高価。巻芯部分よりも鉄芯部分の割合が大きい。
電機子反作用による電圧変動率が小さく、重量によるはずみ車効果が大きいので速度変動率が小さく、結果的に安定度が良くなる。
A 銅機械
小型で軽量。電機子の巻数が多く、銅を多く使う。
7. 同期発電機の運転
(1) 励磁装置
同期発電機は、界磁巻線に励磁電流を供給する直流電源が必要となる。
@ 直流励磁機方式
直流発電機から発生した電流を、界磁巻線に供給する。ブラシや整流子の保守が必要。大容量化が困難。
A 交流励磁機方式
交流発電機から発生した電流を整流器で整流し、界磁巻線に供給する。整流子がないので、その分保守が容易。
コミュテータレス:整流子なし。
ブラシレス:整流子が無く、ブラシもないのでさらに保守が容易。
B 静止形励磁方式(整流器励磁)
主発電機(主母線)から発生した電力の一部をサイリスタで整流し、界磁巻線に供給する。いわゆる自励式。励磁機の遅れがないので、速応性が高く安定度が向上する。整流子とブラシが不要なので保守が容易。
(2) 電圧の調整
負荷電流・力率にかかわらず端子電圧を一定に保つために、自動電圧調整器を使用し、励磁電流を調整する。
@ 発電機の高励磁・遅相運転
夏の昼間など、負荷の大きい時に行う、高励磁の運転。
遅れ力率に対し、遅れ無効電力を供給し、端子電圧の低下を防ぐ。
高励磁により、界磁巻線の温度が上昇する。
A 発電機の低励磁・進相運転
夜間など、軽負荷の時に行う、低励磁の運転。
ケーブル等容量性負荷による進み力率に対し、進み無効電力を供給し、フェランチ効果による電圧の上昇を防ぐ。
低励磁によって、漏れ磁束が増大し、電機子鉄心端部が過熱される。
(3) 不平衡負荷運転
不平衡故障・高調波による逆相電流は、回転子の回転方向と反対方向の回転磁界を生じる。それに誘起された回転子の2倍の周波数の渦電流は、表皮効果の影響で、回転子表面を過熱する。
(4) 並行運転の条件
並行運転の状態が急変した場合、回転速度の増減を繰り返す(乱調)。通常は同期化力によって一定時間で落ち着くが、場合によっては同期外れを起こし、同期速度を脱出して停止してしまう。
したがって並行運転の状態を調べるために、同期検定器が使われる。
@ 発電機の起電力の大きさが等しいこと
もし、と の大きさが異なると、起電力と位相差90°の無効循環電流 が流れて電機子巻線を過熱させる。
:同期リアクタンス
発電機Aから流れる横流 は、 に対しては、90°遅れる。
発電機Bへ流れる横流 は、 に対しては、90°進む。
したがって、一方の励磁を強めて誘導起電力を高くしても、両発電機の無効電力・力率が変わるだけで、有効電力の分担は変わらない。
A 発電機の起電力の位相が等しいこと
もし、と の位相が異なると、起電力と位相差 の有効電流(同期化電流) が流れる。
両者を移動する有効電力は、
同期化力は、
発電機の位相に差ができると、同期化力が働き、位相の進んだ負荷から、位相差 を0にするように作用する有効電流(同期化電流)が循環する。
発電機Aの分担するべき負荷が増えるので、Aの回転速度は下降する。
逆に発電機Bの分担するべき負荷は減るので、Aの回転速度は上昇する。
B 発電機の起電力の周波数が等しいこと
もし周波数が異なると、同期化電流が交互に周期的に流れて、安定した運転ができない。
C 発電機の起電力の波形が等しいこと
もし波形が異なると、高調波無効電流が流れて、電機子巻線を過熱する。
D 原動機の速度特性曲線が一致していること
負荷変動の際に、比例した負荷分担をさせるため。
もし速度特性曲線が異なると、例えば負荷が減少した場合には、速度調定率の大きい方がより多くの有効電力を分担することになる。この場合には原動機の調速機を調整して、速度特性曲線を変える。
8. 同期機の安定度
安定度とは、じょう乱に対し、乱調にならず、平衡状態に回復する能力。
安定度の限界を超えると、脱調し、同期を維持できなくなる(同期はずれ)。
(1) 定態安定度
同期機の励磁一定で、負荷を緩やかに変化させた場合に、安定な運転を継続する能力。
非突極機ではδ=90°の時に最大となり、この電力を定態極限電力という。
発電機の場合、定態極限電力を超えた電力を発電しようとして機械入力を高くすると、余剰エネルギーが発電機を加速させ、回転数が同期を外れ、電力を供給できなくなる。
同期化力は次式で表わされ、δ=90°の時に0となり、これを下回ると同期が維持できない。
(2) 過渡安定度
負荷急変・短絡に対する過渡現象を経過した上で、安定な運転を継続する能力。
等面積法で比較する。
負荷がからへ急変した場合、内部相差角・電力は振動する。最終的にはに収束するが、電力の最大値が過渡安定極限電力を超えると、内部相差角の増加がとどまらずに収束できなくなる。過渡安定極限電力は、定態安定極限電力の40〜50%にとられる。
例えば発電機の場合、短絡事故が起きると、機械入力に対して、送電可能な有効電力が急減するので、発電機は加速し、内部相差角が増加する。
過渡安定極限電力を超えると、加速エネルギーと減速エネルギーの平衡が崩れ(加速エネルギーよりも減速エネルギーが大きくなる)、同期はずれを起こす。
(3) 安定度の向上
@ 速応励磁方式の採用
ブラシレス・サイリスタを採用し、自動電圧調整機(AVR)の速応度を大きくする。負荷急変・短絡時に励磁を強めて同期化力を高めることによって、電圧を一定に保つ。
A 制動巻線の採用(逆相インピーダンスの増加)
磁極面に制動巻線を設けることにより、逆相インピーダンスを増加させ、回転子が同期速度を外れた場合に、制動トルクが発生する。
B 制動抵抗の採用(零相インピーダンスの増加)
事故時の余剰電力を消費させ、故障電流を小さくする。
C 短絡比の大きい発電機の採用(正相過渡リアクタンスの減少)
同期インピーダンスが小さくなり、電圧変動率が小さくなる。ただし、短絡容量が大きくなり、鉄機械ゆえに高価となる。
D はずみ車(フライホイール)の採用
回転子の角速度を均一にし、負荷が急変した時の、回転速度の急変を抑える。
はずみ車効果=回転体の慣性モーメントGD2
G:回転体の重量、D:回転体の直径
9. 同期機の損失・効率
(1) 無負荷損:端子電圧と回転速度に影響され、負荷には無関係な損失
@ 鉄損:鉄心中の現象による損失(固定損)
i. ヒステリシス損:磁束密度の2乗と周波数の積に比例
ii. 渦電流損:磁束密度の2乗と周波数2乗の積に比例
A 機械損(固定損)
i. 摩擦損:軸受摩擦損・ブラシ摩擦損
ii. 風損:回転速度の3乗に比例する
B 励磁損:励磁電流による損失・ブラシの電気損
(2) 負荷損
@ 直接負荷損:負荷電流による損失
i. 電機子巻線による銅損
ii. ブラシの電気損(回転電機子形の場合)
A 漂遊負荷損:電機子電流によって発生する漏れ磁束など、測定困難な損失
(3) 発電機損失の測定
無負荷で励磁しないで、定格速度で回転させれば、機械損が得られる。
無負荷で励磁して定格電圧を発生させれば、鉄損+機械損が得られる。
(4) 同期発電機の規約効率
最大効率を得られるのは、負荷損=無負荷損(=固定損+励磁損)となる場合で、