直流電動機
1. 直流機の特徴
始動トルクが大きい。
負荷の変動に対応したトルクを出すことが容易。
速度制御・回転方向の変更が容易。
誘導電動機よりも価格が高い。
2. 直流電動機の原理
(1) 逆起電力
直流発電機に外部から電流を送れば、そのまま直流電動機になる。
逆起電力の大きさは、発電機の誘導起電力同様、比例係数を用いて、
:電機子の回転数[min-1]
:電機子導体の総数
:並列回路数
(2) 電機子1本(コイルの半周分)当たりのトルク
磁極数を、一極あたりの磁束をとした場合には、
総磁束は となる。
電機子に働く力は、フレミング左手の法則より、
トルクは なので、
電機子1本(コイルの半周分)当たりのトルクは、
(3) 直流電動機のトルク
トルクは、磁束と電流の積に比例する。
3. 直流発電機の電機子反作用
電機子電流によって、主磁束の分布が悪影響を受けることを、電機子反作用と呼ぶ。
この大きさは、電機子電流の大きさに比例する。
直流電動機の場合には、電機子による磁束密度分布の周期は、主磁束対して回転方向に90°遅れる。交差磁化作用が、直流発電機とは180°反対となる。
すなわち、電気的中性軸が、直流発電機とは反対方向に移動する。
補極や補償巻線を施した直流発電機は、直流電動機としてそのまま使える。
4. 直流電動機の種類
(1) 他励電動機
速度を広い範囲に細かく調整できる。
負荷電流(電機子電流)が高くなっても、速度の低下が少ない。
用途:大形圧延機、エレベータ、速度調整用の主電動機
:端子電圧 :逆起電力 :負荷電流 :電機子抵抗
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(2) 分巻電動機(自励電動機)
他励機同様、負荷電流が高くなっても、速度の低下が少ない。
用途:工作機械、ポンプ
:端子電圧 :逆起電力 :負荷電流 :電機子電流 :電機子抵抗 :界磁電流 :分巻界磁抵抗
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(3) 直巻電動機(自励電動機)
始動トルクが大きい。
用途:電気鉄道、クレーン、巻上機
:端子電圧 :逆起電力 :負荷電流 :電機子抵抗 :直巻界磁抵抗
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(4) 複巻電動機(自励電動機)
@ 内分巻電動機
:端子電圧 :逆起電力 :負荷電流 :電機子電流 :電機子抵抗 :界磁電流 :分巻界磁抵抗 :直巻界磁抵抗
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A 外分巻電動機
:端子電圧 :逆起電力 :負荷電流 :電機子電流 :電機子抵抗 :界磁電流 :分巻界磁抵抗 :直巻界磁抵抗
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5. 直流電動機の特性
i. 速度特性曲線(I – n)
電動機の端子電圧一定・界磁抵抗一定の場合の、負荷電流と回転速度の関係
ii. トルク特性曲線(I – T )
電動機の端子電圧一定・界磁抵抗一定の場合の、負荷電流とトルクの関係
これら特性曲線において、 の通り、基本的に磁束は界磁電流に比例し、最終的には磁気飽和に達する。
iii.速度トルク特性曲線(T– n )
電動機の端子電圧一定・界磁抵抗一定の場合の、トルクと回転速度の関係
(1) 他励電動機
他励機なので、磁束は、負荷電流にほとんど関係ない。
i. 速度特性曲線(I – n)
より、
(※ ここではブラシ等の電圧降下を考慮に入れていない)
電圧降下 は小さいので、負荷電流にかかわらず、回転速度はほぼ一定となる。
また、界磁電流が0になると、速度が異常に上昇するので、他励電動機の界磁回路にはヒューズを入れてはならない。
ii. トルク特性曲線(I – T )
より、トルクは負荷電流 に比例して増加する。
ただし、負荷電流が大きくなると、電機子反作用が増し、磁束が減少するので、トルク特性曲線は少し下に曲がる。
iii.速度トルク特性曲線(T– n )
トルクの変化に対しても、速度の変化は小さい。
(2) 分巻電動機
分巻機なので、端子電圧一定の場合、界磁電流も一定となり、磁束は、負荷電流にほとんど関係ない。
i. 速度特性曲線(I – n)
より、
電圧降下があっても、それ以上に電機子反作用で磁束が弱められるので、負荷電流 にかかわらず、回転速度は一定となる(むしろ少し上がる)。
ii. トルク特性曲線(I – T )
より、他励電動機同様、トルクは負荷電流 に比例して増加する。
ただし、負荷電流が大きくなると、電機子反作用が増し、磁束が減少するので、トルク特性曲線は少し下に曲がる。
iii.速度トルク特性曲線(T– n )
トルクの変化に対しても、速度の変化は小さい。
(3) 直巻電動機
直巻機なので、負荷電流=界磁電流となり、磁束が負荷電流に比例する。
i. 速度特性曲線(I – n)
より、
磁束 が負荷電流 に比例するので、負荷電流に対し回転速度は反比例する。
さらに負荷電流を増加させると、磁気飽和のため、回転速度の減少が抑制され、一定となる。
ii. トルク特性曲線(I – T )
より、トルクは負荷電流の2乗に比例して増加する。
さらに負荷電流を増加させると、磁気飽和するので、比例増加になる。
iii.速度トルク特性曲線(T– n )
, より、 となり、双曲線になる。
直巻電動機は、無負荷に近づくと回転速度が異常に高速になるので、無負荷では絶対に運転してはならない。
(4) 複巻電動機
特性は、分巻・直巻の特性を複合したものになる。
@ 和動複巻発電機
直巻機に近い特性を持たせても、無負荷において危険な速度にならない。
分巻機よりも、始動トルクを大きくできる。
クレーン・エレベータ・工作機械用に使われる。
A 差動複巻発電機
ほとんど使われない。
6. 直流電動機の運転
(1) 始動
運転中の端子電圧と逆起電力の関係は、 だが、
始動時には逆起電力が発生していないので、 であり、
電機子抵抗 は小さいので、電機子に大きな始動電流 が流れる。
始動電流が大きいと、電機子巻線・ブラシ・整流子を焼損し、電源にも悪影響を与える。
そこで、始動電流を電動機の定格電流に抑えるために、電機子回路に直列に可変抵抗(始動抵抗・始動器)を入れ、速度の増加とともに抵抗値を減じる。
(2) 逆転
回転方向を変えるには、一般的には電機子回路の接続を切り換えて行う。
そのほか、界磁回路を切り替えても逆回転になる。
また、電源をそのまま逆接続すると、電機子回路と界磁回路がいっぺんに逆接続になるので、回転方向が変わらない。
(3) 速度制御
回転速度を変えるには、磁束、電機子抵抗、端子電圧のいずれかを変化させる。
@ 界磁制御法(弱め界磁制御)
界磁電流すなわち界磁抵抗を変化させて速度制御する。
他励電動機、分巻電動機、複巻電動機で使われる。
直巻電動機の場合には、分流抵抗で界磁電流を変化させる
A 抵抗制御法
電機子抵抗に直列接続した可変抵抗(制御器、始動器と兼用)で速度制御する。
直巻電動機で使われる。
B 電圧制御法
端子電圧を変化させる。他励電動機で使われる。
i. ワードレオナード方式
他励電動機の端子に接続した、直流発電機で電圧を変化させる。
直流発電機は、直結された駆動用電動機で運転される。
他励電動機の界磁と、直流発電機の界磁をそれぞれ細かに調整できるので、広範囲の速度制御が可能となる。
スイッチの切り替えによって、逆転も可能。
また、徐々に電圧を上げることができるので、始動器も必要無い。
圧延機・巻上機・エレベータに適用される。
ii. イルグナー方式
ワードレオナード方式と同様の構成で、駆動用電動機に誘導電動機が用いられる。
誘導電動機にははずみ車が取り付けられ、他励電動機の負荷が急増しても、はずみ車の慣性によって、安定した運転が継続される。
製鉄所の分塊圧延機に適用される。
iii.静止レオナード方式
他励電動機の端子に接続した、サイリスタ整流回路で交流電圧を変化させる。
電力損失が少ないので効率が良く、保守性に優れ、制御の精度も高い。
しかし、波形ひずみを生じ、高調波を発生させ、力率が悪くなる。
iv. 直流チョッパ方式
DC-DCコンバータで直流電圧を変化させる。
(4) 速度変動率
定格電圧・定格負荷において、定格速度で運転した状態で、無負荷にした場合の速度の変動比を表す。
(5) 制動
電動機の運動エネルギーを速やかに消費させること。
@ 発電制動
電動機を電源から切り離し、単独で発電機として作動させ、端子間につないだ抵抗に熱エネルギーとして消費させる。
A 回生制動
電動機の界磁電流を増加させ、端子電圧よりも逆起電力を高くすると、発電機として作動する。回生電流が得られ、電気エネルギーとして電源に返還される。
B ブラッギング
電源に接続したまま電機子の接続を逆にして、反対のトルクを発生させて止める。
C 機械的制動
圧縮空気などで制動機を作動させる。
7. 直流電動機の効率
電動機の入力は、端子電圧×負荷電流で表わされる、端子への電気的入力である。
電動機の出力は、機械的出力である。
電動機の規約効率を求める。
電動機入力 から損失を差し引いた値が、電動機出力に等しいと考える。
分巻機の場合を考える。
負荷電流 の時の入力は、
分巻界磁巻線抵抗による銅損(励磁損)は、
電機子抵抗による銅損は、
固定損(=機械損+鉄損)は、
規約効率について計算すると、
これが最大となるのは、
ゆえに、最大効率を得るための条件は、