直流発電機

 

1. 直流機の構造

回転子は、電機子・整流子・軸で構成される。

固定子は、界磁・継鉄で構成される。

磁気回路は、界磁鉄心→電機子鉄心→界磁鉄心→継鉄→界磁鉄心 となる。

 

(1)  電機子

@ 電機子鉄心

ž  鉄心の周囲にスロット(溝)があり、電機子巻線が収められている。

ž  磁束の方向が絶えず変化するので、鉄損(渦電流損・ヒステリシス損)を生じる。

ž  ケイ素鋼板(薄鋼板)を積層して用いることによって(成層鉄心)、これら磁気的性質は改善される。ただしケイ素の含有率が高いと機械的強度がもろくなる。

 

A 電機子巻線

発電機の場合には、誘導起電力をブラシ間にもたらし、電動機の場合には、ブラシ間にくわえられた電圧によりトルクをもたらす。

電機子巻線法に、重ね巻と波巻がある。

 

i.  重ね巻

電機子コイル一巻きで、隣の整流子片に接続する。極数と並列回路数が等しくなる。

多極機では並列回路数が多くなるから、起電力に微妙な差があると、循環電流が流れて巻線を過熱する。

これを防ぐために、等電位となるべきコイルを結線し、均圧環を設ける。

 

ii. 波巻

電機子コイル一往復で、整流子片に接続する。ブラシからみると、コイルが2つに枝分かれしているので、並列回路数は2になる。

 

 

重ね巻

波巻

電機子の並列回路数

極数に等しい

2

ブラシ数

極数に等しい

2

均圧環

必要

不要

用途

低電圧大電流

高電圧小電流

 

(2)  界磁

@ 界磁鉄心

界磁巻線が巻かれる。電機子鉄心と異なり、磁束分布の変化は無い。

 

A 磁極片

主磁束を、電機子表面に平等に分布させる。

電機子が回転すると、磁極片の磁束分布は変動する。

 

B 継鉄

直流機の外枠を構成する。磁気回路としての役目もある。

 

(3)  整流子・ブラシ

整流子・ブラシは、電機子電流の方向を、一周期あたりで、極数と同じ回数だけ反転させる。

整流子・ブラシともに、摩擦や火花に対する、電気的・機械的強度を持つ。

 

 

2. 直流発電機の原理

(1)  電機子1本(コイルの半周分)当たりの誘導起電力

磁束は、  で表わされるので、

2磁極の直流発電機としての誘導起電力瞬時値は、

 :電機子の周速度、:角周波数

:電機子の半径、:電機子の有効長さ、:磁束密度

 

実際には、正弦波の最大付近の電圧で稼働させるように磁極数を増やすから、

誘導起電力の平均値は、 となる。

 

磁極数を、一極あたりの磁束をとした場合には、総磁束は

 

(2)  直流発電機全体の誘導起電力

電機子導体の総数を、並列回路数を とした場合、発電機の起電力は、

 

比例係数を用いて、

 :電機子の回転数[min-1]

なお、巻数Nのコイル1個当たりの電機子導体数は、2Nとなる。

 

 

3. 直流発電機の電機子反作用

電機子電流によって、主磁束の分布が悪影響を受けることを、電機子反作用と呼ぶ。

この大きさは、電機子電流の大きさに比例する。

 

(1)  界磁による磁束

無負荷状態(発電機端子に何も接続されていない状態)の、界磁起磁力による磁束密度分布で表わされる。

磁束密度がゼロとなる、磁極間の中間位置を、幾何学的中性軸という。

 

(2)  電機子による磁束(交差磁化作用)

界磁起磁力をゼロとして、電機子のみに電流を流した場合の磁束密度分布で表わされる。

電機子起磁力自体は、幾何学的中性軸で最大となるが、この部分にギャップがあるので、磁束密度は低下する。

直流発電機の場合には、磁束密度分布の周期は、主磁束から回転方向に90°進む。

また、主磁束と直交するので、交差磁化作用と呼ぶ。

 

(3)  負荷状態での合成磁束(偏磁作用)

実際に発電機に負荷が接続された場合には、界磁による磁束と電機子による磁束双方が存在するから、磁束密度分布は合成されたものとなる。

電機子反作用によって、磁束密度がゼロとなる位置が、電気的中性軸まで移動する。

また、磁束密度分布は偏りを生じるので、特に偏磁作用と呼ばれる。

 

(4)  電機子反作用の影響

ž  主磁束が減少し、誘導起電力が低下する。

磁極片の磁気飽和のため、偏磁を均一に緩和できず、主磁束が減少してしまう。

 

ž  電気的中性軸が移動し、ブラシ・整流子間に火花が生じ、整流不良を起こす。

ブラシを電気的中性軸に移動しなければならない。ただし、移動すればその分だけ、発電機端子電圧が低下する(減磁作用)。

 

ž  整流子片間電圧が不均一となり、フラッシオーバを起こす。

整流子片間・正負ブラシ間をアーク短絡してしまう。

 

(5)  電機子反作用への対策

どちらも、電機子電流による磁束を打ち消すので、電機子反作用も無くなり、したがって中性軸を移動させる必要もなくなる。

普通は、補極だけ設けて、補償巻線を施さない場合が多い。

 

@ 補償巻線

磁極片に電機子導体と平行にスロットを作り、電機子電流と反対方向の電流を流すことにより、電機子の起磁力を打ち消す。

補償巻線は、電機子に直列接続される。

 

A 補極

幾何学的中性軸上に、主磁極とは別の小磁極を設け、電機子電流による磁束を打ち消す。直流発電機の場合、補極の極性は、一つ先の主磁極と同じにする。

補極巻線は、電機子に直列接続される。

 

 

4. 直流発電機の種類

(1)  他励発電機

界磁電圧を電機子電圧と無関係に設計できる。

用途:試験用高電圧発電機、電気化学用発電機(低電圧大電流)、同期発電機の励磁機

 

 

:誘導起電力

:端子電圧

:負荷電流

:電機子抵抗

 

 

 

(2)  分巻発電機(自励発電機)

電圧変動が少なく、ある程度の電圧調整ができる。

用途:電気化学用発電機、電池の充電、同期発電機の励磁機

 

 

:誘導起電力

:端子電圧

:負荷電流

:電機子電流

:電機子抵抗

:界磁電流

:分巻界磁抵抗

 

 

(3)  直巻発電機(自励発電機)

負荷電流がそのまま励磁電流になる。

用途:直流配電線の昇圧機

 

 

:誘導起電力

:端子電圧

:負荷電流

:電機子抵抗

:直巻界磁抵抗

 

 

 

(4)  複巻発電機(自励発電機)

 

@ 内分巻発電機

 

 

:誘導起電力

:端子電圧

:負荷電流

:電機子電流

:電機子抵抗

:界磁電流

:分巻界磁抵抗

:直巻界磁抵抗

 

 

A 外分巻発電機

 

 

:誘導起電力

:端子電圧

:負荷電流

:電機子電流

:電機子抵抗

:界磁電流

:分巻界磁抵抗

:直巻界磁抵抗

 

 

 

5. 直流発電機の特性

i.   無負荷特性曲線または無負荷飽和曲線(If – E )

発電機の回転速度一定で、無負荷運転の場合の、界磁電流と誘導起電力の関係

 

ii.  負荷特性曲線(If – V )

発電機の回転速度一定で、負荷電流一定の場合の、界磁電流と端子電圧の関係

 

iii.外部特性曲線(I – V )

発電機の回転速度一定で、界磁電流一定の場合の、負荷電流と端子電圧の関係

 

 

(1)  他励発電機

i.   無負荷特性(If – E )

ヒステリシスループを描く。

原点付近において、励磁電流がゼロであっても残留磁気があるため、起電力はゼロにならない。

中間部分において、磁束との関係から、 となるため、比例関係となる。

飽和部分において、励磁電流が大きくなっても、磁気飽和のため、起電力は増加しなくなる。

 

ii.  負荷特性(If – V )

負荷を接続し、電流を流すと、後述する電圧降下の分だけ、無負荷特性曲線が下へ移動する。

 

iii.外部特性(I – V )

負荷電流が増加すれば、端子電圧は単調減少する。

 

@ 電機子抵抗の電圧降下

A 電機子反作用による電圧降下

B ブラシの接触抵抗による電圧降下

 

したがって、端子電圧を維持するためには、励磁電流も増大させればよい。

 

 

(2)  分巻発電機

i.   無負荷特性(If – E )

無負荷でも、電機子電流が流れるので、電圧降下があるが、ほとんど無視できる大きさなので、他励発電機と同様のヒステリシスループを描く。

 

分巻発電機の場合、無負荷において「電圧の確立」という現象が起こる。

残留磁束による電圧発生→励磁電流が流れる→電圧が上昇→励磁電流が増加

その結果、自己励磁によって、無負荷飽和曲線と界磁抵抗線との交点まで、端子電圧が上昇していく。

 

ii.  負荷特性(If – V )

負荷を接続し、電流を流すと、他励発電機と同様に、電圧降下の分だけ、無負荷特性曲線が下へ移動する。

 

iii.外部特性(I – V )

負荷電流が増加すれば、端子電圧は単調減少するが、分巻発電機の場合、端子電圧が低下すると励磁電流も低下するので、他励発電機よりも若干電圧降下が大きい。

 

 

@ 電機子抵抗の電圧降下

A 電機子反作用による電圧降下

B ブラシの接触抵抗による電圧降下

C 励磁電流の低下による電圧降下

 

 

(3)  直巻発電機

i.   無負荷特性(If – E )

無負荷では、電流が全く流れないので、そのままでは無負荷特性は得られない。

そのため、界磁巻線を切り離し、他励磁機として無負荷特性曲線を得る。

直巻発電機の場合、無負荷において自己励磁による電圧の確立は起こらない。

 

ii.  負荷特性(If – V )=外部特性(I – V )

直巻発電機では、負荷電流=電機子電流=励磁電流である。

そのため、電流ゼロでは電圧降下は無いが、負荷を接続し電流を流すと、電圧降下の影響で、一旦上昇した後で、下降する。電流の増加によって磁気回路は飽和するが、抵抗による電圧降下は電流に比例して増加するためである。

電圧降下には、直巻界磁巻線の抵抗によるものも含まれる。

 

 

@ 電機子抵抗の電圧降下

A 界磁巻線抵抗の電圧降下

B 電機子反作用による電圧降下

C ブラシの接触抵抗による電圧降下

 

 

(4)  複巻発電機

特性は、分巻・直巻の特性を複合したものになる。

@ 和動複巻発電機

分巻発電機における電機子反作用・電機子抵抗による電圧降下を、直巻界磁巻線の起磁力によって補う。

 

a. 平複巻発電機

負荷電流の増減に関係なく、端子電圧は変わらない。

 

b. 過複巻発電機

直巻界磁の起磁力を大きく設計し、負荷電流が増加すると、端子電圧も増加する。

 

A 差動複巻発電機

分巻界磁の起磁力を、直巻界磁の起磁力で打ち消す。そのため、負荷電流が増加すると、端子電圧が低下し、垂下特性となる。端子電圧の低下の仕方は、分巻発電機より大きい。

電気溶接用発電機として適用される。

 

 

6. 直流発電機の運転

(1)  始動

@ 界磁抵抗最大で、原動機(水車・タービン)の運転を始動する。

A 界磁抵抗値を調節して、規定の電圧を誘導する。

B 主回路のスイッチをオンにして、負荷へ電流を流す。

 

(2)  電圧の調整

 より、回転数でも、励磁電流でも電圧調整できるが、一般的には回転数は一定に保ち、可変界磁抵抗器で励磁電流を加減して調節する。

 

電圧変動率:定格電圧 に対する無負荷電圧 の変動比を表す。

:定格回転速度・定格出力において、定格電圧を発生させる界磁電流を流し、界磁電流をそのままで無負荷にした時の端子電圧

 

(3)  並行運転

@ 定格電圧が等しいこと

 

A 外部特性曲線が一致していること

負荷変動の際に比例した負荷分担をさせるため。

 

B 外部特性曲線が垂下特性を持つこと

例えば垂下特性を持たない直巻発電機を並行運転すると、負荷のバランスが崩れて一方に電流が多く流れた場合に、端子電圧が増加してしまい、ますます負荷が一方に偏ることになる。

 

7. 直流機の損失

(1)  無負荷損:端子電圧と回転速度に影響され、負荷には無関係な損失

@ 鉄損:鉄心中の現象による損失(固定損)

i.   ヒステリシス損:磁束密度の2乗と周波数の積に比例

ii.  渦電流損:磁束密度の2乗と周波数2乗の積に比例

 

A 機械損(固定損)

i.    摩擦損:軸受・ブラシと整流子に生じる

ii.   風損:回転速度の3乗に比例する

 

B 励磁損:励磁電流による損失で、分巻界磁巻線や他励界磁巻線の銅損

 

(2)  負荷損

@ 直接負荷損:負荷電流による損失

i.    電機子巻線・直巻界磁巻線抵抗による銅損

ii.   ブラシの電気損(回転電機子形の場合)

 

A 漂遊負荷損:測定困難

 

 

8. 直流発電機の効率

(1)  実測効率

発電機の入力は、原動機の機械的出力となる。

発電機の出力は、端子電圧×負荷電流で表わされる、電気的出力である。

 

実測効率の測定では、実際に負荷をかけて測定する。

しかし、回転機では正確な測定が困難である。

また、大容量機では実際に負荷をかけることが困難である。

 

(2)  規約効率

実測効率の代わりに、各損失を測定し、計算で規約効率を求める。

損失合計 と発電機出力 の総和が、発電機入力に等しいと考える。

 

分巻機の場合を考える。

負荷電流 の時の出力は、

分巻界磁巻線抵抗による銅損(励磁損)は、

電機子抵抗による銅損は、

負荷電流のほとんどがそのまま電機子電流になるとみなす。

 

固定損(=機械損+鉄損)は、

 

規約効率について計算すると、

これが最大となるのは、

すなわち、最大効率を得られるのは、負荷損=無負荷損(=固定損+励磁損)となる場合であり、 の時である。

 

ゆえに、最大効率を得るための条件は、

 

 

 

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