送電全般
1. 架空送電線
(1) 架空送電線の電力損失
@ 導体中の抵抗損(大部分)
A 高電圧電線路ではコロナ損
(2) 架空送電線の種類
単線よりも強度に優れ、安全性の高いより線が使われる。
@ 鋼心アルミより線(ACSR)
引張り強さの大きい鋼より線の周りに、導電率の高い硬アルミ線をより合わせた線。
硬銅より線よりも軽く、引張り強さも大きい。
2種類の金属を使っているので、接続に手間がかかる。
アルミは軟質で傷付きやすいので、取り扱いに注意する。
許容電線温度90℃。
A 鋼心耐熱アルミ合金より線(TACSR)
アルミに微量のジルコニウムを添加した、耐熱アルミ合金線を使っている。
許容電線温度150℃、電流容量が50%高くなる。
大容量送電用途。
B 硬銅より線(HDCC)
送電線や配電線には使われなくなってきた。
(3) 多導体方式
1相あたり2〜8条の電線を使うので、等価外径が大きい。275kV以上の送電線で採用される。
単導体と比較した場合、
一本分の導体は細いので、表皮効果による抵抗増加が小さい。
放熱面積が広い。
よって許容電流容量が大きい。同じ電流容量では、20%断面積が小さい。
線路のインダクタンスが20%小さく、静電容量が20%大きいので、安定度が高く、送電容量が20%大きくなる。
電線表面の電位傾度を緩和するので、コロナ臨界電圧が15〜20%高い。コロナ雑音による電波障害や、コロナ損を軽減する。
※ コロナ放電:実効値が21[kV/cm]を超えると発生する。
(4) 電食対策
鋼心アルミより線(ACSR)、鋼心耐熱アルミ合金より線(TACSR)には、亜鉛めっきがしてあるので、海岸部では塩水によって、異種金属間に電食が発生する。
対策として、鋼心である亜鉛めっき鋼より線に防食剤を充填する。
または、鋼心に腐食に強いアルミ覆鋼線を使う。
2. 地中送電線(ケーブル)
(1) 架空送電線との特徴比較
対地静電容量が大きい。
フェランチ効果が顕著に出る。
無負荷送電線を遮断し、再投入する場合に、大きな過渡的開閉過電圧が発生する。
通信線と接近して敷設されるので、電磁誘導障害が大きくなる。
3. 光ファイバ
光を信号とし、伝送路には光ファイバケーブルを用いる。送受信装置に半導体を用いる。
電力線からの電磁誘導を受けないので雑音が少ない。
伝送路における損失が少ない。
軽量なので敷設が容易。
長距離大容量伝送路向き
従来、配電線に添架されてきた。
OPGW:送電線の架空地線に光ファイバを内蔵した構造の、光ファイバ複合架空地線
素材がガラスファイバ。
支持物が送電線鉄塔なので、信頼度が高い。
電気事故の保守情報支援システムに活用される。
4. がいし
(1) 懸垂がいし
懸垂がいしの負担電圧
直列に連結した場合の負担電圧は、電線側で大きく、接地側で小さくなる。
がいしの負担電圧が高くなり、コロナ放電すると、がいしの自己静電容量が増加する。
負担電圧の高いがいしの自己静電容量増加によって、電圧分布は改善される(フラッシオーバ直前では均等になる)。
懸垂がいしの個数
がいしの開閉サージ注水フラッシオーバ電圧値(商用周波数)を基礎とする。
この値が、電線路の交流蒸気対地電圧波高値の4〜5倍に相当するように、がいしの個数を決定する。
劣化を考慮し、保守用のがいし1個を余分に加える。
(2) 長幹がいし
がいしの表面にひだがある。⇔懸垂がいしでは、裏面にひだがある。
裏面にひだがないので、塩じんによるがいし汚損が少なく、雨洗効果が大きい(無ひだ型、流線形渦巻型など)。
表面漏れ距離が長い(深溝型など)。
単純に距離が長いので、経年劣化が少ない。
塩害地域の耐霧がいしとして適用される。
(3) 耐塩がいし
裏面のひだを深くして、対汚損性能を30%高くする。
がいしの連長を長くできない場所で使用する
(4) 電線路に雷撃を受けた場合の電圧
I:雷撃による鉄塔電流、R:衝撃電流に対する塔脚接地抵抗
Cξ:架空地線と電線との結合係数
a:隣接鉄塔からの反射波による波高低減率
この値が、がいし連の衝撃フラッシオーバより小さくなるように、衝撃電流に対する塔脚接地抵抗を選定する。
(5) 塩害対策
塩じんが付着し湿潤状態になると、漏れ電流による局部アークから、フラッシオーバに発展する。
等価塩分付着量を測定して、がいしの汚損管理を行う。
がいしを洗浄する。
自動噴水装置による活線注水洗浄。
水幕方式(台風を利用して洗浄する)
がいしの増結(過絶縁)=漏れ距離の増加
漏れ距離の長い長幹がいし、耐霧がいし、耐塩がいしの使用。
シリコンコンパウンドを塗布する。
密閉型の採用や、屋内に収容する。
GIS(ガス開閉設備)によって、充電部分を外気に露出させない。
5. 調相
(1) 定電圧送電方式
送電端・受電端電圧をそれぞれ一定に保ちつつ、送電を行う。
連係上、機器の絶縁上、都合が良い。
受電端で無効電力を供給する必要があるので、調相設備を設置する。
(2) 調相設備
@ 発電機
界磁電流を制御することにより、連続的に出力電圧を調整する。
A 負荷時電圧調整器付き変圧器
負荷時タップ切換変圧器により、段階的に電圧を調整する。
B 同期調相器
界磁電流を制御することにより、連続的に系統電圧を調整する。
C 電力コンデンサ(並列)
進相無効電力を系統から吸収させることによって、系統の遅相電流を減少させ、段階的に系統電圧を調整する(電圧低下の防止)。
D 分路リアクトル
遅相無効電力を系統から吸収させることによって、系統の進相電流を減少させ、段階的に系統電圧を調整する(電圧上昇の防止、フェランチ効果対策)。
E 静止型無効電力補償装置(SVC)
無効電力を制御することにより、連続的に系統電圧を調整する。
6. 安定度
(1) 安定度の分類
じょう乱が起こった後に、平衡状態に回復する能力を安定度と呼ぶ。
@ 定態安定度
緩やかな負荷変動に対して、安定して電力を送電する能力。
自動電圧調整器による発電機の誘導電圧の調整や、調速機により、定態安定度が向上する(動態安定度)。
定態安定極限電力
∵受電電力は、次式で表わされる
送受電端電圧を一定にして、送電電力を増加させると、相差角θが上昇しθ=90°で受電電力が最大となる(定態安定極限電力)。さらに増加させると、受電電力が減少し、同期を維持できなくなり脱調する。
※ 脱調:極限を超えた電力を送電しようとすると、余剰エネルギーが発電機を加速させ、回転数が同期を外れ、電力を供給できなくなる。
また、定態安定度の解析に用いられる同期化力は、次式で表わされる。
0の点が安定限界で、0を下回ると不安定になる。
A 過渡安定度
急激な負荷変動、地絡事故、断線事故発生時に、脱調を起こさず平衡状態に回復して送電する能力。
(2) 安定度の向上対策
@ 系統の誘導性リアクタンスを低減する。
線路を2回線並列にする。
2回線送電線の電力分担
電線を多導体にする。
リアクタンスの小さい発電機、変圧器を採用する。
短絡比の大きい発電機を使う。大容量タービン発電機は短絡比が小さいので安定度が低下する。
直列コンデンサを採用する。
線路の誘導性リアクタンスを打ち消し、線路を短縮するのと等価である。
したがって、線路の電圧降下を低減させ、受電端の電圧変動率を軽減する。
メリット
負荷の力率が悪いほど、直列コンデンサによる改善効果が大きい。
電圧調整が負荷変動と同時に行われるので、時間的な遅れがない。
デメリット
短絡事故時にコンデンサに過大電流が流れ、高電圧IXc が発生する。
無負荷時・軽負荷時に電気振動を起こす可能性がある。
電気振動がタービン軸の機械振動と共振すると、同期発電機の軸ねじれ現象や、負制動現象の原因となる
A 系統の電圧変動を小さくする。
系統を連係する。
線路の中間に調相設備を設置する。
B 事故時のじょう乱を小さくする。
高速で故障個所を切り離し再送電する(高速度再閉路方式)。
中性点接地方式。
C 発電機入出力を制御する。
ブラシレス・サイリスタなど速応励磁方式を採用し、負荷変動・事故時には急速に励磁を強め、同期化力を増加させる。
制動抵抗を挿入し、事故時の余剰電力を消費させる。
7. 送電線の保護
(1) 直接接地系統送電線の主保護継電装置
アナログリレー装置・デジタルリレー装置(瞬時値を30°ごとにサンプリング)がある。
@ 位相比較保護継電方式
保護区間両端における端子電流の位相を比較して、事故点を識別する。
内部事故時には、事故回線と健全回線の位相差は180°となり、位相比較保護継電器が動作する。
外部事故時には、両端子電流が同相となり、位相比較保護継電器は動作しない。
A 電流差動保護継電方式
保護区間に出入りする電流のベクトル和を検出して、事故点を識別する。
内部事故時には、ベクトル和が0ではなくなるので、電流差動保護継電器が動作する。
外部事故時には、ベクトル和は0のままなので、電流差動保護継電器は動作しない。
(2) パイロット継電方式
保護区間両端において故障電流の方向から、事故点を識別する。
判定結果は、表示線(パイロットワイヤ)・電力線・マイクロ波で相手端に送信され、内部故障ならば、両端同時高速遮断する。
@ 差動方式
A 位相比較方式
B 方向比較方式
C 転送方式
(3) 送電線短絡保護継電器
@ 過電流継電器
故障電流が大きくなるのを検出して動作する。
設備が簡単で安価。
一端のみに電源を有する放射状系統送電線、重要度の低い下位系統に適用される。
系統の変化で、故障電流・負荷電流の増減によって、整定値を変更する必要がある。
故障区間の選択に時間を要する。
A 短絡方向継電器
故障電流の方向を判別できる。
両端電源、またはループ状送電線など、故障電流の方向が変化する系統に適用される。
B 距離継電器
電源からの距離に応じて、動作特性に協調を持たせる。
故障点までの距離測定により動作するので、高速遮断が可能。
複雑な系統で適用される。
C 短絡回線選択継電器
並行回線間(故障回線−健全回線)の不平衡電流を検出する。
方向継電器と過電流継電器の組み合わせで、高速遮断される。
並行2回線送電線で適用される。
並行2回線が、不平衡運用となる場合は適用できない。
そのほか、平衡2回線の短絡保護継電器として、電流平衡式、電力平衡式がある。
(4) 再閉路方式
故障区間をいったん切り離せば、アークは自然消滅するので、事故点の絶縁回復を待って、再び遮断器を投入し、送電を継続する。
過渡安定度が向上し、送電容量を増やせる。信頼度も向上する。
@ 単相再閉路
一相事故の場合に、故障相だけを遮断し、再閉路する。高速再閉路。
A 三相再閉路
事故相に関係なく、三相を一括遮断し、再閉路する。
電圧位相角を確認してから再閉路するので、低速再閉路となる。
B 多相再閉路
2回線送電線において、故障相だけを遮断し、再閉路する。高速再閉路。
C 同期再閉路
複数ルートで連係されている2回線送電線において、1ルートだけを遮断し、再閉路する。高速再閉路。1ルートが遮断されても同期は保たれている。
8. 異常電圧対策
(1) 短時間交流過電圧
送電線が容量性負荷であるために、過電圧を起こす場合がある。@・Aでは、地中電線路の場合、さらに顕著となる。
@ フェランチ効果
無負荷送電線を充電する場合、送電端電圧よりも受電端電圧が高くなる。
対策としては、分路リアクトルを設置し、充電電流を打ち消す。
A 自己励磁現象
無負荷時に、無励磁でありながら、発電機端子電圧が上昇する。
対策としては、分路リアクトルを設置し、充電電流を打ち消す。
なお、自己励磁を起こさないための条件式は、
Ks:発電機短絡比、σ:容量発電機飽和係数
Vn:発電機定格電圧、Qn:発電機定格容量
V:線路充電電圧、Q:線路充電容量
B 地絡サージ
一線地絡事故発生時に、健全相の対地電圧が上昇し、さらに過渡的振動電圧が重畳され、過電圧が発生する。
非接地系では、間欠アーク地絡(アークの自然消滅→再点弧)が発生しやすい。
C 発電機と送電線の共振
地絡・短絡事故発生時に、制動巻線の無い発電機のリアクタンスと、送電線の静電容量が共振し、高調波の過電圧が発生する。
制動巻線があれば、防止できる。
(2) サージ性過電圧
@ 開閉サージ
発生するのは、
故障電流を遮断した時の再点弧現象
無負荷送電線の充電電流を遮断した時→対策:消弧能力の大きいガス遮断器・空気遮断器
変圧器の励磁電流・分路リアクトルの電流を遮断した時→対策:抵抗付き遮断器
無負荷送電線へ、三相の非同期投入をした時→対策:抵抗投入・同期投入
A 雷サージ
雷過電圧として、送電線への直撃雷、雷雲の影響で送電線を伝搬する誘導雷、逆フラッシオーバがある。
対策としては、架空地線・接地棒・埋設地線など。
a.架空地線の設置
静電遮蔽によって、電線への誘導雷を防止する。
電線への直撃雷を防止する。遮蔽角が小さいほど、効果が大きい。
地絡故障時に、電線上の進行波を減衰させ、通信線の電磁誘導障害を少なくする。特に起誘導電流の大きい、超高圧有効接地系でその効果が大きい。
※ 架空地線
導電率の高いより線が用いられる。
架空地線の大地帰路自己インピーダンスと接地抵抗が低いほど遮蔽効果が大きい。
b.不平衡絶縁方式
2回線送電線で、同時事故を防止する。
絶縁強度にあえて差をつけ、鉄塔に雷撃があった場合、低絶縁側のみフラッシオーバさせる。
c.接地棒・埋設地線
鉄塔脚部に接地棒・埋設地線を施設し、接地抵抗を下げて、逆フラッシオーバを防止する。
塔脚の接地抵抗値は、25Ω程度が推奨される。
※ 逆フラッシオーバ
架空地線・鉄塔に雷撃があった場合、接地抵抗が高いと架空地線・鉄塔の電位が上がり、その電位ががいし連のインパルスフラッシオーバ電圧を超えると、送電線に放電(逆フラッシオーバ)してしまう。
※ 埋設地線
地下数十cmにおいて、地表面に沿って数十mの金属線数本を埋設する。一端を鉄塔脚部に接続する。
d.アークホーン
逆フラッシオーバが発生してしまった場合に、がいしにアークが絡むのを防ぐ。
e.アーマロッド
逆フラッシオーバが発生してしまった場合に、電線の溶断を防止する。
(3) 人体歩幅電圧
2本の接地導体とその間に立つ人がある場合に、一方の接地線Aから大地に流れる電流Iによって、他方の接地線Cに接触した人Bに加わる電圧V
Aを原点として、Bまでの距離をAB、Cまでの距離をACとする。
Bに加わる電圧は、AB間の電位差−AC間の電位差だから、大地の抵抗率ρから、
電流は、Aから放射状に広がるので、ある点での電流は、その距離を半径とした半球の表面積で割った値となる(遠い点ほど電流は小さく、電位が低くなる)。
9. 誘導障害
電力線に近接した通信線などに誘導電圧を発生する。
(1) 静電誘導障害
高電圧送電線−通信線間の静電容量CA・CB・CCと通信線−大地間の静電容量CS によって発生する。
通信線の静電誘導電圧VS
だから、
CA =CB =CC の場合は、VS =0
静電誘導の影響
@ 送電線下で電圧が誘導された金属体に、人が触れた時の静電誘導感知
A 通信線受話器に誘導電流が流れる雑音障害
静電誘導対策
@ 送電線の地上高を十分高くし、地表面付近の電界強度を弱める。
A 送電線のねん架を十分に施す。
B 2回線送電線では、回線ごとに逆相配列にする。
C 送電線に近接する金属体には接地工事を施す。
D 遮蔽線・遮蔽柵・保護網を設置する。
E 送電線と通信線との離隔距離を十分大きくする。
F 通信線に鉛被覆など金属被覆ケーブルを用い、金属被覆には接地工事を施す。
(2) 電磁誘導障害
高電圧送電線−通信線間の相互インダクタンスMによって発生する。
普段は三相電流の総和が0なので障害は無い。しかし、一線地絡事故で大きな地絡電流(零相電流)I0が流れると、障害が問題となる。
通信線の電磁誘導電圧Vm
基本的に、Vm が300V以下になるように規制されている。
事故発生確率が小さく、0.2秒以内で事故を除去できる場合は、430Vまで許容される。
電磁誘導の影響
@ 通信線に大きな電圧を誘導し、通信機に障害を与える。
A 通信線に大きな電圧を誘導し、人畜に危害を加える。
電磁誘導対策
@ 送電線の接地に、高抵抗接地方式・リアクトル接地方式を採用し、地絡電流を抑制する。
A 送電線のねん架を十分に施す。
B 送電線と通信線との離隔距離を十分大きくする。交差する場合は直角交差にする。
C 送電線と通信線の間に遮蔽線を設ける。
D 通信線にアルミ被誘導遮蔽ケーブルを用い、通信線に避雷器を設置する。
※ ねん架:送電線の配置箇所を順次入れ替える。
架空送電線の線間距離、大地からの距離をそろえる。
各相のインダクタンス・静電容量をそろえ、電圧・電流の不平衡を防ぐ。
10. コロナ障害
(1) コロナ放電
高電圧導体表面の電位傾度が大きい部分で、空気の絶縁が破壊して、低い音・薄い光を発して放電する現象。
温度20℃・1気圧の空気中では、電位傾度の実効値が21kV/cm、波高値で30kV/cmで放電を開始する(コロナ臨界電位の傾き)。
コロナ臨界電位の傾きは、温度・湿度・気圧・雨などの気象条件の影響を受ける。
電線のコロナ臨界電圧E0は、素導体の数・間隔・配置などの幾何学的条件の影響を受ける。
m0:電線表面係数、m1:天候係数、δ:相対空気密度
r:電線半径[cm]、D:線間距離[m]
(2) コロナの影響
電力損失(コロナ損)を生じ、送電効率が低下する。
ラジオ障害を与える。
(3) コロナ対策
電線を太くして電線表面の電位傾度を下げる。
送電線路に多導体方式を採用する。単導体よりも20%コロナ臨界電圧が高い。
架線金具の形状を改良する。
架線時に電線表面や金具を傷つけない。