水力発電所
1. 水力発電設備
構造による分類
@ 水路式発電所
小容量発電で、ベース負荷に適する。
A ダム式発電所
大容量発電で、ピーク負荷に適する。
B ダム水路式発電所
ダム式よりも落差が大きい。
貯水池→ダム→取水口→圧力水路→サージタンク→水圧管路→発電所→放水路→河川
・ 導水路(圧力水路)
取水口から水槽までの水路。
・ サージタンク
流量の急激な変化(水撃圧)から圧力水路や水圧管路を守る水槽。水車の負荷変動を安定させる役目ももつ。
・ 水圧管路
水車に圧力水を送る管路。末端に水車入口弁がある。
運用による分類
@ 流れ込み式発電所
自然流量に応じて発電する。
A 調整池式発電所
日間・週間の負荷変動に応じて、河川流量を調整できる調整池を持つ。深夜・軽負荷時に水を蓄え、ピーク負荷時に発電放流。
B 貯水池式発電所
季節間の河川流量変動を調整できる貯水池を持つ。豊水期に貯水し、渇水期に使用する。ピーク負荷にも対応。
C 揚水式発電所
余剰電力を位置エネルギーとして蓄える電力貯蔵設備として働く。始動停止が簡単で、負荷応答性に優れる。
純揚水式(揚水のみを貯水)と混合揚水式(河川の流水と揚水を貯水)がある。
揚水時の速度を変えて運転することにより、揚水時の電力調整、軽負荷時の周波数調整を可能とする(可変速揚水発電システム)。
上部池⇔取水口⇔圧力水路⇔サージタンク⇔水圧管路⇔発電所(ポンプ水車)⇔放水路⇔下部池
・ ポンプ水車(フランシス型、斜流型)
ポンプと水車の機能を兼ね備えたもの。水車の逆回転がポンプ。ポンプの場合と水車の場合の最高効率を発揮する回転速度が近いことが望ましい。
可変速揚水発電システム
ポンプ水車の揚水時の回転速度を変えて運転することにより、揚水時の電力調整、軽負荷時の周波数調整を可能とする。
⇔一般的な発電機は系統の周波数に同期して、一定の回転速度で運転されている。
(1) 可変速発電電動機の回転子は円筒形で三相分布巻線とした構造をとり、周波数変換器(サイクロコンバータ)によって低周波交流(数Hz)で励磁される。
(2) 水車の回転速度に応じた周波数の電流で励磁し、その周波数の調整によって回転子の回転速度を制御する。
(3) 回転子の回転速度の変化を補って、固定子には商用周波数の電圧が発生するので、電力系統との同期は保たれる。
2. ダム
コンクリートダム
@ 重力ダム
最も多く使用されている。構造が簡単。安定性が良い。建設費が高い。
A アーチダム
基礎・側面岩盤の強い場所に建設可能。資材を節減できる。
B バットレスダム
鉄筋コンクリートによる遮水壁を築造する。資材を節減できる。
フィルダム
C アースダム
堤体を土砂で築造。
D ロックフィルダム
堤体を岩石塊で築造。アスファルトやコンクリートで遮水壁を設ける。
3. 水車
衝動水車:速度水頭を利用。
@ ペルトン水車
・ 高落差(250m以上)、小流量用。変動負荷に適し、軽負荷でも損失は少ない。最高効率は小さい。
・ 変流量(部分負荷)、変落差に対しても、水車効率は変わらない(流量が変化しても噴射水の方向は変わらない、使用ノズル数を変えて対応)。
・ 流水をノズルから噴出させ、水車のバケット(ランナの羽根)に衝突させて回転させる。
・ ノズルの数により、単射形、多射形がある。
ランナ:バケットを円盤に取り付けたもの全体。
調速機(ガバナ):ニードル弁の開度を調整する。
ニードル弁:調速機によって、一定回転数になるよう水量の調整を行う。負荷遮断時にはデフレクタと連携して、徐々に閉鎖する(水圧管路の水圧上昇を抑える)。
デフレクタ:負荷遮断時等に、噴射水の方向を一時的バケットから反らす(水車の速度上昇を抑える)。
負荷変動:発電機の負荷変動。軽負荷⇔定格運転⇔過負荷
部分負荷:発電量を調整するために、流水量を変えて水車を運転。
A クロスフロー水車
・ 小水力発電用。部分負荷に適する。
・ ガイドベーン(案内羽根)に導かれた流水がランナ内側を貫流する。
ガイドベーン(案内羽根):流水をランナに導く。
ランナベーン:ランナに設けられた羽根。
反動水車:圧力水頭を利用。
B フランシス水車
・ 中・高落差(50〜500m)。軽負荷・過負荷で水車効率低下。最高効率は大きい。
・ 変流量(部分負荷)、変落差に対して、効率低下(ランナ羽根は固定なので、ガイドベーンとの入口角が一致しない)。
・ 流水がランナの半径方向から流入、ランナ内で軸方向に向きを変えて流出、その間に流水の圧力が減少し、その反動でランナを回転させる。
ランナ:羽根(ランナベーン)付きの水車の主体。
調速機(ガバナ):ガイドベーンの開度を調整する。
ガイドベーン(案内羽根):流水の方向、流量の調節をする。
吸出し管:ランナから流出した水を満水の状態で放流させる。
ケーシング:水圧管路からランナに水を送るための渦巻状の鉄管。
封水装置:水車回転部と静止部の隙間からの漏水を防止する。
C 斜流水車(デリア水車)
・ 中落差 (40〜180m)、中流量用。変動負荷に適する。
・ 変流量(部分負荷)、変落差に対しても、水車効率は変わらない(ガイドベーン・ランナベーンともに可動)。
・ 流水がランナ軸に対し、斜めに通過する。
D プロペラ水車(カプラン水車)
・ 低・中落差 (10〜80m)、大流量用。
・ 流水がランナの軸方向から流入し、軸方向に流出する。
・ プロペラ水車は、ランナベーンが固定なので、軽負荷時に効率低下。
・ カプラン水車は、変流量(部分負荷)、変落差に対しても、水車効率は変わらないし、変動負荷にも適する(ガイドベーン・ランナベーンともに可動)。
E 円筒水車(チューブラ水車)
・ 低落差(20m以下)。変動負荷に適する。
・ ランナベーンは可動式で、渦巻ケーシングがなく流水の通路が単純。
・
水車と発電機が一体型で、水路の内部に設置する。
4. 吸出し管
反動水車特有の設備。末広がりに断面積を大きくして水の速度を落とす。水車が放水面より高く設置されている場合に、ランナから放出する水の運動エネルギーを、落差分の位置エネルギーとして回収する。
・ キャビテーション(空洞現象)
流水中の絶対圧力が飽和蒸気圧以下になると、気泡が発生する。この気泡が下流部分で破裂する時に衝撃を生じる。効率低下、水量の減少、流水面(ニードル弁、バケット、ランナ等)の摩耗・腐食、吸出し管入口の水圧変動が著しくなる等の障害を発生する。
これを防止するために、
@ 比速度を大きくしない。
A 吸出し管の吸出し高さをあまり高くしない。
B 吸出し管上部に空気を入れて、低圧部分の発生を抑える。
C 流水面に浸食に強い材料(ステンレス)を使う。
D 流水面を平滑にする。
E 過度の部分負荷、過負荷運転を避ける。
5. 入口弁
水圧管路の末端でケーシングの直前に設けられた制水弁。通常、水車の停止状態で開閉を行う。
@ チョウ型弁
構造が簡単で安価。円盤型の弁体が回転する構造。全開時に損失水頭が大きく、全閉時に漏水が生じやすい。落差200m以下用。
A 複葉弁
チョウ型弁の改善版。弁体がトラス構造。チョウ型弁より、損失水頭が小さく、漏水も少ない。落差350m以下用。
B スルース弁
構造が複雑で高価。サーボモータで上下動作するせき止め構造。小流量・高落差用。
C ロータリー弁
円筒の弁体が回転する構造。高落差、大容量揚水機器用。
6. サージタンク
水圧管路の上部に設置される。管路の水圧が上昇すると水面が上昇し、水圧が低下すると水面が下降するといったように、水圧変化を吸収し、負荷変動による水撃圧力が圧力水路に及ぶのを防ぐ。また流量の調整も行っている。
・ 水撃作用(ウォーターハンマー)
管路端の弁を急閉すると、管路内に圧力波が伝搬し、振動水圧を生じる。これを防ぐために、
@ ヘッドタンクの設置。
A サージタンクの設置。
B 反動水車に制圧機。
C 衝撃水車にデフレクタ。
7. 調速機(ガバナ)
水車の回転速度および出力を調整するため、回転速度変化に応じて自動的に水口開度(ニードル弁またはガイドベーン)を調整する。負荷の変化に応じて適合する流量を送り込み、周波数を一定に保つ働きをする。
・ ガバナフリー運転
負荷が急激に減少すると、系統周波数が上昇する。周波数が上昇すると、回転数も上昇してしまう(同期発電機)。そこで、回転数の上昇を自動的に調速機が感知し、流入水量を絞り、出力を制御する。
・ 電力系統の周波数・出力調整
@ 給電調整:30分〜1時間以上。出力変更、起動停止など。
A AFC(自動周波数制御):数分。
B ガバナフリー運転:数分以下。
8. 水車発電機
@ 同期発電機
通常の水力発電において使われる。調速機で水車に流入する水量(ニードル弁またはガイドベーン)を調整することにより、発電機出力を増減できる。回転子と固定子の冷却は空気冷却。
・ 同期並入
同期発電機を系統・ほかの発電機と並列運転するために、周波数・電圧・位相を一致させる(自動同期装置・同期検定装置を使う)。
・ 無効電力
発電機の励磁電流を増減することで調整する。
・ 自己励磁
無負荷で運転中の同期発電機に、長距離送電線のような容量性負荷を接続すると、充電電流が流れる。この充電電流は進み電流であるため、電気子反作用として増磁作用となる。この進み電流によって、発電機電圧が上昇し、さらに充電電流が増加するということを繰り返し、無励磁でありながら発電機電圧がある大きさまで上昇し続ける。
自己励磁を防止するには、
(1)発電機の容量を大きくする
(2)発電機の界磁を減磁して、電圧を低くする
(3)送電線路の静電容量を小さくする(送電線の分離、受電端に分路リアクトルを並列接続する)
A 同期発電電動機
揚水発電に使われる。揚水時に同期電動機として始動するときには、過大な始動電流が系統に悪影響しないように、低電圧始動、水車内の水を圧縮空気で押し下げるなどして始動する。周波数変換装置を使って可変速運転を可能とする。
発電電動機の始動方式として、
・ 制動巻線始動方式
制動巻線を利用し、かご形三相誘導電動機として始動用回路を使用して始動し、同期速度付近で界磁を励磁し同期運転させる。
・ 直結電動機始動方式
回転軸直結の始動電動機で加速し、同期速度付近で界磁・電機子を電源に接続し同期運転させる。始動電動機の容量としては、主電動機の5%程度。
・ 同期始動方式
発電電動機とほかの発電機とを停止時に電気的に結合して、発電機を起動する。
・ 低周波始動方式
制動巻線始動方式と同期始動方式を組み合わせた方式。
・ 低周波始動方式
始動開始前に励磁を発電電動機に与え、サイリスタ変換装置の交流出力電力を発電電動機に加え、変換装置の周波数を低周波から低格周波数まで連続的に変えて加速する方式。サイリスタ変換器により、電動機の回転子位置に応じた電流を電機子に供給する。
B 誘導発電機
小水力発電機として用いられる。回転磁界を作るための別の交流電源が必要となる。
利点として
・ 構造が簡単、丈夫で安価(固定子は同期機と同じだが、回転子がかご型)。
・ 同期化の手数が不要。
・ 励磁機、電圧調整装置、調速機が不要。
・ 短絡事故の際に短絡電流が小さい。
欠点として
・ 系統からの励磁が必要で、単独運転ができない。
・ 負荷に無効電力を供給できない。
・ 励磁電流として系統から無効電力をとるので、系統の力率を悪くする。
・ 力率・電圧・周波数の調整ができない。
・ 系統への並列時に大きな突入電流が流れる。