火力発電理論
1.熱力学の第一法則
熱も仕事も同じエネルギー。
内部エネルギー は、加えられた熱量 の分だけ増加し、外界へ行った仕事 の分だけ減少する。
エンタルピー(流体の内部エネルギーと、その流体を境界に押し込むための力学的エネルギーの総和)
より、
比エンタルピー
2.熱力学の第二法則
エネルギーを仕事に変えるには、必ず温度の降下と、低温度において熱エネルギーの放出を伴う。
仕事は容易に全部熱に変わるが、熱を仕事に変えるのは難しく、その一部しか仕事に変わらない(エントロピーの増加)。
エントロピー
3.蒸気
顕熱(水の液体熱)
0.1MPaにおいて、1kgの水を1℃高めるのに必要な熱量。4.186[kJ/kg℃]
潜熱(水の蒸発熱)
1kgの水を同温度の水蒸気にするのに必要な熱量。2256[kJ/kg℃] (at 100℃ 0.1MPa)
臨界点
圧力を上昇させると蒸発熱が小さくなり、臨界点で、蒸発熱は0になる。
臨界点では、水は蒸発という現象を伴わず水蒸気となる。
臨界圧力:22.1[MPa]
臨界温度:647[K]
湿り蒸気範囲
飽和水が熱を受けて乾き蒸気になるまでの範囲。温度は一定。
湿り蒸気:飽和水(飽和温度の水)の粒が混合した飽和蒸気。
乾き度x:湿り蒸気1kg中の、乾き蒸気の重量[kg] ⇔ 湿り度(1-x)
過熱蒸気範囲
乾き蒸気をその圧力のまま加熱した、過熱蒸気の範囲。
過熱度=過熱蒸気温度−飽和温度(同じ圧力)
4.カルノーサイクル
カルノーサイクル:理想気体の準静的・可逆的サイクル。
@ 断熱圧縮:外界から仕事を与えられる。温度はに上がる。
A 等温膨張:絶対温度の高温熱源から熱量を得る。
B 断熱膨張:仕事を取り出す。温度はに下がる。
C 等温圧縮:絶対温度の低温熱源へ熱量を放出する。
カルノーサイクルの熱効率
高熱源温度:タービンの入り口温度
低熱源温度:海・河川・大気の温度
5.ランキンサイクル
ランキンサイクル:作動流体の気相と液相を組み合わせたサイクル。
@ 断熱膨張:タービン内で過熱蒸気が仕事をし、湿り蒸気となる。
A 等温圧縮:復水器で湿り蒸気を冷却し、飽和水にする。熱量を放出する。
B 断熱圧縮:給水ポンプで飽和水をボイラ圧力まで昇圧する。
C 等圧加熱:ボイラ内で飽和水を飽和温度まで加熱する。
D 等温膨張:飽和水を加熱して、乾き蒸気とする。(等圧)
E 過熱:過熱器で乾き蒸気を加熱し、過熱蒸気とする。(等圧)
ランキンサイクルの熱効率
:サイクルで発生する仕事
:タービンで発生する仕事
:ボイラの供給する熱量
:復水器で捨てる熱量
ここで、 はタービンで発生する仕事である。
そして、は給水ポンプに要する仕事で、無視できるほど小さい。
6.再熱再生サイクル
@ 再生サイクル
復水器で捨てる熱量が、発生仕事量より多く、熱効率を下げる原因となっている。
これを改善するため、タービンの蒸気の一部を抽出し、給水加熱器で、給水を加熱し、復水器で捨てる熱量を減少させることによって、熱効率を上昇させる。ただし、タービンでの発生仕事量は減少する。
再生サイクルの熱効率
A 再熱サイクル
タービン入口では過熱蒸気でも、膨張中に乾き蒸気となり、タービン出口で湿り蒸気となる。湿り蒸気は摩擦を増加させ、効率を低下させる。
これを改善するため、蒸気の初圧を高くして、さらに湿り度が増さないように、タービン内で膨張中の蒸気を抽出し、再熱器で加熱し、再びタービン内に送って膨張を続ける。
再熱サイクルの熱効率
B 再熱再生サイクル
大容量発電設備に利用される、実用上最も熱効率の高いサイクル。
7.火力発電所の効率
汽力発電所
@ ボイラ効率=ボイラ蒸気発熱量/燃料発生熱量
Z :蒸気使用量[kg/h]
:ボイラ出口(タービン入口)エンタルピー[kJ/kg]
:ボイラ給水エンタルピー[kJ/kg]
B :燃料使用量[kg/h], H :燃料発熱量[kJ/kg]
A 熱サイクル効率=タービン入力熱量/ボイラ蒸気発熱量
:タービン出口エンタルピー[kJ/kg]
B タービン効率=タービン出力/タービン入力熱量
:タービン出力[kW]
C タービン熱効率=タービン出力/ボイラ蒸気発熱量=熱サイクル効率×タービン効率
※タービン熱効率(タービン室効率)は復水器での損失を考慮に入れた効率
ボイラ蒸気発熱量=タービン入力熱量+復水器での損失熱量
D 発電機効率=発電機出力/タービン出力
:発電機出力[kW]
E 発電端熱効率=発電機出力/燃料発生熱量=効率×タービン効率
汽力発電所:
コンバインドサイクル発電所:
F 送電端熱効率=送電電力/燃料発生熱量=効率×タービン効率
所内比率
:送電電力[kW]
G 熱消費率:1kWhを発電するのにどれだけの熱量[kJ]を消費したか
熱損失:復水器での損失熱量が50%を占める
熱効率の向上対策
@ 高温高圧の蒸気を利用する。タービンの入り口温度を上げる。556℃、24.1MPaが標準。
A 再熱再生サイクルを利用する。
B 復水器の真空度を上げる。タービンの排気圧力を下げる。
C 節炭器、空気予熱器を設置して、排ガスエネルギーを吸収する。
D ボイラ排ガス中の酸素量を最適にする。
8.ボイラの燃焼理論
理想空気量
炭素1kmol(12kg)の燃焼に酸素1mol(22.4m3N)必要
水素1kmol(2kg)の燃焼に酸素0.5mol(11.2m3N)必要
空気中の酸素の量は21%
よって、炭化水素を完全燃焼させるのに必要な理想空気量は、
:炭素重量[kg] , :水素重量[kg]
ただし実際の燃焼には理想空気量の2〜3割増しの空気の量をボイラに送る。
また、酸素の量が多すぎると排ガス量が増え排ガス損失が大きくなり、少なすぎると未燃分損が発生し、ともに熱効率を低下させる原因となる。
二酸化炭素発生量
炭素1kmol(12kg)の燃焼によって二酸化炭素1mol(44kg)が発生する。
9.ガスタービン発電
ブレイトンサイクル:高圧空気の中で燃料を燃焼させて熱エネルギーを与える。
@ 断熱膨張:膨張しつつ、ガスタービンで仕事をする。
A 等温放熱:大気圧近くの低圧で大気へ排出。
B 断熱圧縮:大気から吸入された空気が、空気圧縮機で圧縮される。
C 等圧加熱:燃焼器において、圧縮空気中の燃料を燃焼、高温高圧の燃焼ガスを発生させる。
熱効率:圧縮比 で決まる。
熱効率の向上対策
@ タービン入口温度を上げる。
A 空気量を増加させる。
B 空気の圧力を高める。
C 回転部を軽量化する。
D 圧縮機入口温度を下げる(空気の密度が増すため)。
10. コンバインドサイクル発電
コンバインドサイクル:高温域でブレイトンサイクル(ガスタービン)、低温域でランキンサイクル(蒸気タービン)を組み合わせて熱効率向上を図る。燃料はガスタービンのみに投入される。
熱効率