原子力発電
1. 原子炉の構成要素
@ 核燃料
低濃縮ウランをペレットに成型し棒状にしたもの。沸騰水型軽水炉ではジルコニウムのチャネルボックスに収められており、加圧水型軽水炉では燃料集合体がむき出しになっている。
A 減速材(軽水・重水・黒鉛)
核分裂で発生した高速中性子の速度を減速させ、熱中性子にするもの。
中性子を吸収しないこと。
質量数の小さいこと。小さいほど減速効果が大きい。
※ 軽水は中性子の減速効果が大きいが、熱中性子の吸収も大きい。それに対して、重水と黒鉛は熱中性子の吸収が少ないため、すぐれた減速材である。
B 冷却材(軽水・炭酸ガス・液体ナトリウム)
核分裂で発生した熱エネルギーを炉外に移送する。
中性子を吸収しないこと。
融点が低く、熱伝導性に優れていること。
化学的に不活性で、他材料と反応しないこと。
熱・放射能に対して分解されず、安定性があること。
C 反射材
原子炉外へ出る中性子を反射して炉心部に戻す。減速材と同じ材料。
D 制御棒(ホウ素化合物、カドミウム、ハフニウム)
中性子を吸収して核分裂反応を抑える。中性子吸収剤が充填されている。沸騰水型では下側から、加圧水型では上側から挿入される。
中性子吸収が大きいこと。その効果が長時間持続すること。
E 遮蔽材(鉛・鉄・コンクリート)
中性子やガンマ線、放射能を炉外へ出さない。
高速中性子の減速効果が大きいこと。
ガンマ線の吸収がよいこと。
熱伝導性に優れていること。
F 構造材(アルミニウム・ステンレス・鉄・コンクリート)
炉心や反射材を収容する。
中性子の吸収が少ないこと。
熱・放射能に対して安定性があること。
熱伝導性に優れていること。
熱応力が高いこと。
2. 原子力発電所の運用
原子力発電所は燃料費の割合が小さいので、運用コストが安く、ベースロード(定格負荷)で、利用率の高い運転がおこなわれている。
起動・停止などの大幅な出力変化をさせる場合には、制御棒で炉心の反応度を制御する。
運転中の小幅な出力変化には、沸騰水型では再循環流量の調整、加圧水型ではホウ素濃度の変化で対応させている。
緊急停止の場合には、制御棒を挿入し、後備設備としてホウ酸水注入系で炉心内にホウ酸を注入する。
臨界:原子炉が核分裂の連鎖反応を継続している状態。
反応度:原子炉の出力にかかわる。臨界状態からどのくらい離れているかを示す。
崩壊熱:原子炉を停止した後でも発生する熱。原子炉を停止した後でも、それまでの運転で蓄積された核分裂生成物が、他の元素に崩壊していく過程で熱を生じる。
3. 原子炉の種類
減速材の種類によって、軽水炉、重水炉、黒鉛炉等に分類される。
(1) 軽水炉
軽水は熱中性子を吸収しやすいため、燃料には濃縮ウランが使われる。
そのほか、ウラン資源の利用効率を上げるために、MOX燃料が用いられる(プルサーマル)。
@ 沸騰水型軽水炉(BWR)
出力の制御は、軽水炉が主導でタービンが追従。
炉心で発生した蒸気が、直接タービンを駆動するため、熱効率が高い。
圧力が低い(加圧水型の半分)ので、大型で出力密度が低い。
沸騰した蒸気の湿分を除去するため、汽水分離器や蒸気乾燥器を備える。
沸騰水型の起動
制御棒の引抜きにより臨界状態とする。
沸騰水型のプラント出力制御=原子炉主導・タービン追従方式
i. 再循環流量制御
原子炉内の炉心冷却水流量を、再循環ポンプによって制御する。
流量を増やせば、炉心内のボイドが減少し、出力が上昇する。
高速・大幅な制御が可能なので、運転中の出力変化に対応する。
ii. 制御棒
制御棒引抜きにより、出力が上昇する。
起動・停止・緊急停止・負荷変化など、急速な反応度制御に用いられる。
A 加圧水型軽水炉(PWR)
出力の制御は、タービンが主導で軽水炉が追従。
炉心で熱せられた高い温度の水が沸騰しないように、加圧した水で炉心を冷却し、熱を取り出す。蒸気発生器を介して熱交換が行われるので、熱効率が低い。
圧力が高いので、小型で出力密度が高い。
加圧器・蒸気発生器が必要なので、系統が複雑になる。
一次系冷却材の軽水と二次系冷却材の軽水は分離しているので、二次系(タービン系)の運転・保守は放射能を考慮しなくてよい。
沸騰させないので、ボイドを生じない。したがって、出力調整は、流量ではなく、冷却材中のホウ素濃度により制御される。
加圧水型の起動
昇温・昇圧後、ホウ素濃度の希釈と制御棒クラスタの引抜きにより臨界状態とする。
加圧水型のプラント出力制御=タービン主導・原子炉追従方式
i. ホウ素制御(ケミカルシム)
一次冷却材のホウ素(中性子吸収材)濃度を希釈すれば、出力が上昇する。
温度変化などによる、比較的緩慢な反応度変化を制御する。
ii. 制御棒クラスタ
制御棒クラスタ引抜きにより、出力が上昇する。
起動・停止・緊急停止・負荷変化など、急速な反応度制御に用いられる。
(2) 重水炉
減速材に重水を使うことにより、濃縮していない天然ウランを燃料に使用できる。
B 軽水冷却型重水炉(新型転換炉ATR)
構造は沸騰水型と類似。発生した蒸気が直接タービンを駆動する。
減速材に重水、冷却材に軽水を使い分ける。
C 加圧重水冷却型重水炉(CANDU)
減速材と冷却材ともに重水を使用する。
(3) 黒鉛炉
安価な黒鉛を減速材として用いる。天然ウランを燃料として使用できる。
D ガス冷却黒鉛炉(GCR)
冷却材として、炭酸ガスまたはヘリウムガスを用いる。
冷却材が気体なので、沸騰を考慮する必要がなく、比較的高温の蒸気を得られる。
E 高温ガス炉(HTGR)
冷却材として、ヘリウムガスを用いる。
700〜1000℃の高温が得られるので、自らの水素製造、石炭のガス化、高熱効率の発電に利用できる。
(4) 高速増殖炉(FBR)
熱中性子ではなく、高速中性子で核分裂連鎖反応を起こすため、減速材が無い。
燃料は天然ウラン、またはプルトニウムを含有するMOX燃料が使用できる。
核燃料として使えないウラン238に高速中性子を当てると、核燃料として使えるプルトニウム239に転換できる。そのため、ウランの利用効率を飛躍的に高くすることができる。
転換比が1.2なので、発電しながら消費した以上の核燃料を生み出せる。
冷却材には液体ナトリウム等の低融点金属が用いられる。
蒸気の圧力は、常圧よりも低い(0.6気圧)。
軽水炉と高速増殖炉の比較
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高速増殖炉 |
軽水炉 |
|
沸騰水型 |
加圧水型 |
||
燃料 |
プルトニウム |
低濃縮ウラン |
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中性子 |
高速中性子 |
熱中性子 |
|
減速材 |
なし |
軽水 |
|
一次冷却材 |
ナトリウム |
||
構成 |
一・二次系 |
一次系のみ |
一・二次系 |
蒸気条件 |
0.06MPa 500℃ |
7MPa 280℃ |
16MPa 320℃ |
1気圧≒0.1MPa
4. 核燃料
@ 天然ウラン
ウラン238(核分裂しない)が99.3%、ウラン235(核分裂する)が0.7%。
A イエローケーキ(U3O8)
天然ウランが精錬される。
B 低濃縮ウラン=6フッ化ウラン(UF6)
イエローケーキが転換・濃縮される。ウラン235が3〜5%。
C 二酸化ウラン(UO2)
ウランが粉末状に再転換される。
D 燃料集合体
粉末がペレットとして焼き固められ、成型加工される。
ジルコニウム合金製の被覆管に封入して、原子力発電所で使用される燃料棒とする。
E 使用済み燃料
貯蔵プールで冷却後、キャスクに納めて再処理工場に運ばれる。
燃え残りのウラン、新たに生成されたプルトニウム239が含まれる。再処理工場で、ウラン235(1%)と、プルトニウム、高レベル廃液(放射性廃棄物)と分離される。
F プルトニウム・ウラン235(1%)
プルトニウムはMOX燃料として、ウラン235(1%)は転換工場で再利用される。
G 高レベル放射性廃棄物
長期間保管貯蔵される。超ウラン元素(長い半減期核種)が含まれる。
※ 半減期:放射性原子核が、放射線を出してもとの半分の数になるまでの時間。
H MOX燃料
燃え残りのウラン等とプルトニウムを混ぜてつくった燃料。プルトニウム含有率は、プルサーマル用で4〜9%、高速増殖炉用で16〜21%。
※ プルサーマル:軽水炉でMOX燃料を利用すること。高速増殖炉と違い、熱中性子でプルトニウムの分裂がおこる。
5. 原子力発電所と汽力発電所の比較
汽力発電所と比較すると、蒸気条件が悪い。蒸気温度・圧力が低い。
汽力発電所よりも熱効率が低い。
蒸気使用量が多く必要となり、タービンが大型になる。径が大きいと遠心力が大きくなるので、タービン回転数を汽力発電所の2分の1にしている。
蒸気量が多く、復水器の冷却水の量が多くなる。
原子炉に関しては、汽力発電所のボイラよりも出力密度が高く、小型になる。
|
原子力発電 |
汽力発電 |
蒸気条件 |
低温低圧 PWR:16MPa,320℃ |
高温高圧 16〜27MPa, 538〜566℃ |
熱効率 |
31〜34% |
35〜40% |
回転速度 |
1500min-1,1800min-1 |
3000min-1,3600min-1 (高圧タービン) |
冷却水量 |
多い |
少ない |
燃焼空気 |
不要(燃焼しない) |
必要 |
燃料費 |
発電原価の20〜30% |
発電原価の60% |
6. 原子力発電所の安全性
安全性に関して、多重防護が採られている。
(1) 自己制御性(軽水炉の固有の安全性)
@ ドップラー効果
燃料に含まれるウラン238は、特定のエネルギーの中性子に対して強い吸収効果を持ち、温度が上がると吸収できるエネルギー範囲が広がり、出力が抑制される。
A ボイド効果(沸騰水型の場合)
核分裂が進行しすぎて温度が上がり、沸騰してボイド(蒸気泡)ができると、中性子に対する減速能力が低下し、核分裂が抑制される。
B 負の温度効果
核分裂が進行しすぎて温度が上がると、水(減速材)の密度が下がり、中性子に対する減速能力が低下し、核分裂が抑制される。
(2) 異常の発生の防止(安全設計)
@ フェールセーフ設計:故障が生じても、安全な方向へ働く
A インターロック:条件を満たさないと装置が動かないように、誤動作の発生を防止する
(3) 異常の拡大の防止
検出装置・自動停止装置により、早期検出し、事故への発展を防止する。
(4) 事故に至った場合の対策
@ 非常用炉心冷却設備(ECCS)
加圧水型軽水炉の一時側冷却材喪失事故の時に、燃料取換用水タンクのホウ酸水を原子炉に注入し、炉心を冷却すると同時に核分裂反応を抑制する。
蓄圧・高圧・低圧注入系より構成される。
i. 蓄圧注入系:外部動力を要さずに注入する。
ii. 高圧注入系:高圧注入ポンプにより注入する。
iii.低圧注入系:余熱除去ポンプにより注入する。格納容器サンプからも取水する。
A 原子炉格納容器
原子炉一次系設備を収納する容器。事故が起きた場合には、原子炉一次系から放出される放射性物質を閉じ込め、外部への放散を防止する。
7. ウランのエネルギー
(1) ウラン235の核分裂
ウラン235に中性子1個を当てると、
@ 84%は核分裂を起こし、質量欠損に相当するエネルギー200MeVが放出される。
さらに新たな中性子も、平均2.47個が放出される。
核分裂で発生した高速中性子(2MeV)は、減速材で熱中性子(0.025eV)に減速される。
発生した中性子のうち1個を次の核分裂に使い、残りを制御棒に吸収させる。
この実効中性子増倍率が1の時、原子炉の連鎖反応が保ち、臨界状態という。
A 16%はガンマ線を放出し、安定なウラン236になる。
(2) アボガドロ数
1mol当たりの原子の数。6.02×1023個。
(3) 原子の核反応放出エネルギー=質量欠損に相当するエネルギー
アインシュタインの特殊相対性理論から、質量m とエネルギーE の等価性として、
ただし、光速