1. ブラウン管(CRT : Cathode Ray Tube)
(1) 原理
@ 電子銃から電子ビームが照射される。ビームの強弱が、発光輝度の明暗に対応する。
A 偏向ヨークで発生させた磁界により、ビームの軌道を制御する。
B ビームをRGBの発色をする蛍光体に当てて発光させ、カラー表現する。
電子銃はRGBの計3本。
(2) 長所
応答速度が速く、各画素がインパルス駆動されるので、動画表示に強い。
(3) 短所
解像度に限界がある。解像度を上げると、輝度が落ちる。画素開口率(光の透過率)が下がるため。
輝度を上げるために、ビーム強度高くすると、消費電力が大きくなってしまう。
ビーム強度を高くすると、関係の無い周辺画素にも影響を及ぼしてしまう。
長時間同じ画像を映し続けると、焼きつきが発生する。
原理上、内部を真空に保つ必要があり、薄型化できない。
※ 輝度:ある方向の光度Iθ を、垂直に投影した面積で微分した値。単位面積当たりのディスプレイの明暗を表す。
2. 液晶ディスプレイ(LCD : Liquid Crystal Display)
(1) 原理
@ バックライトから光が照射される。発光は画素自身ではなく、バックライトが行う。
A 液晶画素に光を透過させる。光の透過率を制御し、発光輝度の明暗に対応する
B 光をカラーフィルタでRGBの色をつけて、カラー表現する。
(2) 長所
バックライトの蛍光管は、省電力性能に優れ、CRTよりも消費電力が小さい。
画素開口率がCRTやPDPよりも高く、解像度が高い。
長寿命。寿命はバックライトに依存するが、冷陰極蛍光管で6万時間。
軽量化・薄型化が可能。
(3) 短所
自発光では無いので、コントラストに難がある。
自発光では無いので、視野角に限界がある。
応答時間が20ms以上あるのでCRTより遅く、動画を見ると残像が映る。
※ コントラスト:最大輝度と最小輝度の比で表わされる。大きいほど黒がきれいに表現される。
(4) 液晶による明暗の制御
@ 液晶を90°位相をずらした2枚の偏光板で挟み込む。
A 液晶入口の偏光板によって、バックライトからの入射光の位相を統一する。
B 液晶出口の偏光板を光が透過できるかできないかで、明暗の表示を制御する。
a. 光の位相を変化させずに、そのまま液晶を通過させた場合には、出口の偏光板を透過できない(暗表示)。
b. 光の位相を90°変化させて、液晶を通過させた場合には、出口の偏光板を透過できる(明表示)。
(5) 液晶の種類
@ TN液晶(縦電界駆動方式)
液晶分子の「旋光現象」を、電圧で制御することによって、液晶画素の明暗を操作する。
a. 電圧オン状態の時、液晶分子が縦方向に直立し、光の位相に影響を及ぼさない(暗表示)。
b. 電圧オフ状態の時、液晶分子はそのねじれた配列によって、光の位相を回転させる(明表示)。
迷光が存在し、視野角が狭く、角度によってはコントラスト性が悪い。
※ TN液晶での旋光現象:液晶を透過する光は、液晶分子によって、位相がねじれる。ねじれ具合は電圧で変化する。
※ 液晶分子:液晶画素に封入されている高分子化合物
A IPS液晶(横電界駆動方式)
液晶分子が光を「複屈折」させる現象を、電圧で制御することによって、液晶画素の明暗を操作する。
a. 電圧オフ状態の時、横たわった液晶分子の方向は、光の位相に影響を及ぼさない(暗表示)。
b. 電圧オン状態の時、液晶分子が向きを変えて、光を拡散させて、光の位相を回転させる(明表示)。
TN液晶よりも迷光が少ないので、見る角度で色が変わることは無く、視野角も広くなる。
迷光すなわち漏れる光が少ないので、TN液晶よりもコントラスト性が高い。
電圧オフ状態の時、暗表示である(ノーマリーブラック)。
※ IPS液晶での光の複屈折:液晶を透過する光は、液晶分子の向きの変化(回転方向)によって拡散される。液晶分子の向きは電圧で変化する。
B MVA液晶(マルチドメインVA液晶)
液晶分子が光を「複屈折」させる現象を、電圧で制御することによって、液晶画素の明暗を操作する。
a. 電圧オフ状態の時、液晶分子が縦方向に直立し、光の位相に影響を及ぼさない(暗表示)。
b. 電圧オン状態の時、横たわった液晶分子が、光を拡散させて、光の位相を回転させる(明表示)。
TN液晶よりも、迷光が少ないことは、IPS液晶と同様である。そのため視野角も広く、コントラスト性も高い。
さらに改良したものとして、PVA液晶やCPA液晶がある。
電圧オフ状態の時、暗表示である(ノーマリーブラック)。
※ MVA液晶での光の複屈折:液晶を透過する光は、液晶分子の向き(縦横)によって拡散される。液晶分子の寝る角度は電圧で変化する。
C OCB液晶
液晶分子が光を複屈折させる現象を、電圧で制御することによって、液晶画素の明暗を操作する。
a. 電圧オン状態の時、垂直に立った液晶分子は、光の位相に影響を及ぼさない(暗表示)。
b. 電圧オフ状態の時、液晶分子は弓なりに配向し、光を拡散させて、光の位相を回転させる(明表示)。
液晶自体の特性として、広い視野角と、高いコントラスト性を実現できる。マルチドメイン化などの工夫は必要ない。
他の液晶よりも高速応答が可能で、動画視認性が良い。
電圧オン状態の時、暗表示である(ノーマリーホワイト)。黒がきれいに表現できる。
応答時間
|
TN液晶 |
IPS液晶 |
MVA液晶 |
OCB液晶 |
常温 |
35ms |
20ms |
20ms |
5ms |
-20℃ |
350ms |
1700ms |
1300ms |
130ms |
(6) 液晶の駆動方式
@ パッシブマトリクス駆動
ドット数と同じ本数の電極を格子状に敷く。各画素の直下に交差点が来る。
クロストークが発生しやすい。
※ クロストーク:目的の周囲の画素も、電圧駆動してしまい、残像が見えてしまう。
A アクティブマトリクス駆動
各画素ごとに、スイッチング素子を格子状に配置する。
トランジスタのオン・オフで、各画素の電圧を独立制御する。
クロストークが起きにくい。
液晶の応答時間が速い。
この駆動方式を採用した液晶ディスプレイを、特にTFT液晶と呼ぶ。
トランジスタ(TFT)は、ガラス基板上に低温プラズマCVDで生成したアモルファスシリコンによって形成される。
B オーバードライブ駆動回路(DCC駆動回路)
印加電圧の方形波パルスに対して、液晶の発光輝度の明暗は積分回路のように遅れて変化する。
そのため、極端な電圧変化には輝度も速く応答できるが、微妙な変化の場合は応答が遅いので、残像が残る。
そこで、あえて目的の電圧値よりも低く(アンダーシュート)、または高く(オーバーシュート)することによって、輝度の応答を強制的に速くさせる。
C 倍速駆動技術
秒間のコマ数を、自動的に合成して増やす(補間フレーム)。
それによって、見かけ上、映像が連続的になり、残像が軽減される。
(7) バックライト
@ 冷陰極蛍光管(CCFL : Cold Cathord Fluorescent Lamp)
電極に数百Vの高電圧を印加し、電子を放出する。放電によって発生した紫外線が蛍光体にぶつかって発光する。
消費電力が小さい。
管径を細くできるので、薄型ディスプレイに有利。そのため、現在液晶用バックライトの主流。
寿命は6万時間と長い。
A 熱陰極蛍光管(HCFL : Hot Cathord Fluorescent Lamp)
電極のフィラメントを加熱し、熱電子を発生させる(低電圧)。放電によって発生した紫外線が蛍光体にぶつかって発光する。
消費電力が大きいが、そのぶん輝度が高く明るい。発光効率も高い。
電極が大きいので、管径が太くなる。
寿命は3000〜1万5000時間。
B 発光ダイオード(LED : Light Emitting Diode)
半導体のPN接合に電圧を印加すると、キャリアの再結合によって発光する。
発光する光の色純度が高い。
単色のLEDにRGBの蛍光体を組み合わせたものや、RGBそれぞれのLEDを混色する構成がある。後者のRGB-LED方式が主流。白色LEDはノートパソコンに使われる。
RGB-LED方式は、色再現性に優れる。
寿命は10万時間で、とても長い。
駆動システムの消費電力が大きい。
LED自体の価格が高い。
バックライトとして使われるほかに、LEDディスプレイもある。応答性が速い。
3. プラズマディスプレイパネル(PDP : Plasma Display Panel)
(1) 原理
@ 画素内部の希ガスに放電し、紫外線を発生させる。
A 紫外線を、蛍光体に当てて、発光させる。
B RGB単色を発光する画素(サブピクセル)を並べて、カラー表現する。
発光は画素自身が行う。
自発光なので、黒は発光しないことで表現される。
階調表現が、RGB各サブピクセルの明滅頻度(時間積分)で行われる。放電電圧の強度とは関係がない。たとえば輝度を明るくするには、単位時間内に何回も光る。
※ 階調表現:RGBそれぞれの輝度を調節することによって、色を再現する。
(2) 長所
自発光なので、コントラスト感が高く、視野角も広い。黒がきれいに表現できる。
応答時間は液晶よりやや速い(7ms)。動画視認性が良い。
CRTや液晶より色再現性が良い。カラーフィルタ等の工夫により、大きく改善された。
(3) 短所
明るいところでは、コントラスト比が大きく低下する。ディスプレイ表面の構造に起因する。
応答速度自体は速いが、輝度・階調が時間積分によるデジタル的表現なので、動画を見たとき疑似輪郭が知覚されやすい。
同じ映像を表示し続けると、焼き付きが起きやすい。
発光効率が悪いので、液晶・CRTより消費電力が大きい。
希ガスプラズマ放電の発光色が影響する可能性がある。技術的な工夫が必要。
構造上(画素隔壁)、画素開口率が液晶より小さい。小型のパネルで解像度を高くすることができない。
寿命は2万時間で、液晶よりも短い。(ただし、輝度が半分に低下する時間をPDPの寿命と定義する場合。純粋な意味での寿命は、液晶と同じく6万時間とされる。)
(4) プラズマ
陰極から出た2次電子によって、電離と励起が起こる。
@ キセノンの直接電離
A 準安定状態への励起(ペニング効果)
B 準安定原子による電離(ペニング効果)
C 電子衝突励起
D 光子の自然放出
キセノンプラズマから出る147nmの紫外線が、蛍光体を励起して、RGB可視光に変換する。
(5) 高純度クリスタル層
FEDのように、負性電子親和力を持った電子放出源を備える。
すなわち、従来の、電極から電子放出→プラズマ放電→紫外線→蛍光体の発光に併せて、
クリスタル層からも電子を放出させることによって、放電効率の向上に貢献している。
それによって、
高効率発光:22%効率を向上させ、消費電力の低減に貢献できる。
高速放電:放電速度が3倍に上がり、より高度な階調表現能力が確保される。
4. 有機ELディスプレイ
(1) 原理
@ 電圧をかけ、有機化合物の画素発光層を電気的に駆動させて、発光させる。
A 色表現はカラーフィルタを用いるか、有機化合物自体からRGBを発光させるかして表現する。
発光は画素自身が行う。黒は発光しないことで表現される。
輝度は印加電圧で制御される。
透明電極である陽極側から視聴者に向けて光が出力される。
発光ダイオードのように、構造自体は単純。
曲がる有機ELディスプレイなども開発されている。
(2) 長所
自発光なので、PDPと同じくらいコントラスト感が高く、鮮やか。
視野角はCRTと同じくらいに広い。
応答速度が液晶より3ケタも速く(数十μs)、各画素がインパルス駆動されるので、動画表示に強い。
原理上、熱を出さない。
バックライト不要で、構造も単純なので、超薄型。
(3) 短所
発光効率が悪いので、液晶より暗い。
輝度を補うために、消費電力が大幅に増加する。
寿命は5000時間と短い。湿気や酸化により、有機化合物の劣化が速い。
(4) 発光方式
@ RGBそれぞれの色を発光する有機化合物を、平面方向に並べる。
解像度を細かくするのに限界がある。
各色の有機化合物の劣化具合が違うので、使っているうちに画面の色がおかしくなる。
A RGBそれぞれの色を発光する有機化合物を垂直方向に並べて、積層構造にする。
1ピクセルでRGB画素を実現できるので、解像度が高い。
製造が困難。
B 白色発光の有機化合物に、RGB3色のカラーフィルタを組み合わせる。
単一材料なので、劣化がばらつかない。
発光した3分の1しか使えないので、発光効率が低い。
C 青色発光の有機化合物に、色変換用の赤と緑を作る蛍光体を組み合わせる。
白色発光よりは、発光効率が良い。
画質の劣化は、色変換の蛍光体に依存する。
(5) 駆動
液晶のアクティブマトリクス駆動のように、TFTが使われる。2個のトランジスタで電流を制御する。
ただし、応答速度の速い有機ELに対応させるため、アモルファスよりも電子移動度の大きいポリシリコンが使われる。
(6) 無機ELとの比較
有機ELは10V駆動なので、無機ELの200Vより駆動電圧が低い。
有機ELは無機ELよりもカラー化しやすい。
耐久性からくる寿命については、有機化合物を使っていない無機ELのほうが優れる。
5. 電界放出型ディスプレイ(FED : Field Emission Display)
(1) 原理
@ 電子銃から電子が放出される。
A 階調表現は電子の放出量でアナログ的に制御される。
B 電子をRGBの発色をする蛍光体に当てて発光させ、カラー表現する。
原理としては、CRTに似ている。ただし、FEDの電子銃は各サブピクセルに4000個以上。
電子銃には負性電子親和力を持った、カーボンナノチューブや、プラズマCVD生成のダイヤモンドなどが使われる。
発光は画素自身が行う。黒は発光しないことで表現される。
SEDも、FEDの一種。SEDでは、電子銃の代わりに、数十kVを印加した基板のナノギャップから、トンネル効果によって電子が飛び出す(各ギャップには数十Vが印加される)。
(2) 長所
発光効率が高い。
自発光なので、コントラスト感が高く、視野角も広い
応答速度がブラウン管並みに速く(μsオーダー)、各画素がインパルス駆動されるので、動画表示に強い。
画素開口率が大きい。高解像度。
(3) 短所
電子ビームの通り道は真空に保つ必要がある。
要求される技術レベルが高く、製造コストも高いので、事業化が困難。
6. ディスプレイ比較
(1) 液晶とPDP
PDPは動画視認性が良いとされるが、液晶においても、オーバードライブ・倍速化技術によって、応答時間が速くなっているので、実使用上遜色のないレベルまで追いついてきている。
また、コントラスト比についても、液晶の技術が向上している上、もともとPDPは明るい所ではコントラスト比が大きく低下するので、必ずしもPDPが優れているとは言い切れない。
(2) 液晶
OCB液晶が最も優れた性質の液晶ではあるが、IPS液晶やMVA液晶でもオーバードライブ・倍速化などによって、実使用上、差は無くなってきている。
(3) 有機ELとFED
どちらも、動画視認性に関する欠点を持たない、非常に優れた次世代ディスプレイである。
応答時間については原理上、FEDが最速となる。
ただ、FEDの一種・SEDに関しては、特許の訴訟問題があって、開発・販売計画が完全に遅れてしまった。
有機ELは構造的な柔軟性があるので、小型・薄型用途や液晶全般の代替として期待されることになる。
それに対し、FEDは特性上やや大型向きなので、PDPの代替という位置付けになるだろうか。
代表的な値による比較
|
液晶 |
プラズマ |
有機EL |
FED |
発光源 |
バックライト |
自発光 (蛍光体) |
自発光 (有機化合物) |
自発光 (蛍光体) |
コントラスト比 |
3000:1 |
3万:1 |
100万:1 |
2万:1 |
応答時間 |
20ms |
7ms |
数十μs |
数μs |
消費電力 (40インチ) |
200W |
300W |
500W |
100W |
寿命 |
60000h |
20000h |
5000h |
20000h |