1. ハイブリッド車
2. バッテリ
3. モータ
4. インバータ
(1) 定義
エンジンとモータといった、異なる動力機構を備えた自動車。
化石燃料の燃焼によってエンジンを動かすガソリン車と、バッテリから供給される電気によってモータを動かす電気自動車を組み合わせたもの。
(2) メリット
駆動がモータである電気自動車の走行性能は高い。ただし、バッテリはエネルギー密度が低いので、搭載可能な重量・スペースを考えると、電気自動車の航続距離は短くなる。
そこで、ガソリン車とのハイブリッド方式にすることによって、走行性能と航続距離を両立させることができる。なおかつ、バッテリに外部から充電することも無く、燃費の良い走行が可能となる。
(3) 種類
@ シリーズ方式
エンジンは発電のみ行い、駆動にはモータのみが使われる。
ディーゼル機関車や潜水艦の駆動方法。
システムとしては単純で、石油火力発電所から大出力のモータまでを車に搭載したようなものである。
単純な直列系システムそのものの効率が高い。しかし、実際は自動車として走行しなくてはならないので、効率の悪い大型エンジンの重量を考慮すると、総合的な効率は高くならない。
トヨタ・コースター(マイクロバス)に採用された。
A パラレル方式
エンジンとモータの双方を駆動に使う。
駆動の主体はエンジンで、モータはアシストの役割を担う。
市街地走行時には加減速性能の高いモータを使い、高速安定走行時にはガソリンエンジンを使い航続距離を延ばす。
また、減速時には回生により、モータが発電機として働く。
Honda IMA システムとして、インサイト・シビックに採用されている。
B スプリット方式
エンジンとモータの双方を駆動に使う。さらにモータとは別の発電機を備える。
駆動に使う比率は、状況に応じて変えることができる。
減速時にはモータが発電するのに加え、走行時にも発電機で発電できる。
エンジン・モータ・発電機はプラネタリーギアの動力分割機構で接続されている。
ハイブリッドシステムとしては最も優秀なものになり得るが、制御が複雑になる。
THS(Toyota Hybrid System)として、プリウスなどに採用されている。
(4) ハイブリッド車の三大コア部品
・ バッテリ
・ モータ
・ インバータ
ハイブリッド車に限らず、電気自動車、燃料電池ハイブリッド車でもコアとなる技術である。
(5) 補機
バッテリからDC-DCコンバータで降圧され、電力供給される。
特にエアコンなどは、燃費に与える影響が大きい。
・ エアコン:1〜2kW(真夏:4〜5kW)
・ ライト:60〜200W
・ ワイパー:40〜100W
・ ラジオ:20〜50W
変わったところでは、3代目プリウスは太陽電池で送風ファンを回す、ホンダの燃料電池車FCXクラリティでは背もたれにペルチェ素子を備えるなどといったものが挙げられる。
(1) 二次電池の種類
@ ニッケル水素電池
・ 公称電圧は1.2Vで、ニカド電池と同じだが、ニカド電池よりもエネルギー密度が高い。
・ ニカド電池同様、過充電や過放電に強い。
・ メモリー効果や自己放電といった欠点を持つ。
・ 水溶液系電解液なので、電圧変動や熱に弱い。水が電気分解される。したがって、セルによって寿命の進行がばらつく可能性がある。ただし、電解液に水が含まれているので、ショートしても発火することが無い。
・ プリウスやインサイトに搭載され、現在の主流である。
・ プリウスのバッテリでは、セル間がレーザ溶接されている。
A リチウムイオン電池
・ 公称電圧は3.7Vで、車載用途としては、最もエネルギー密度が高い二次電池である。(コイン型では金属リチウム二次電池が最も高い。)
・ 電極材料の化学変化を伴わないインターカレーション型電池である。そのためサイクル寿命が長い。
・ メモリー効果や自己放電が無い。
・ 有機溶媒系電解質なので、水系電解液のような電気分解の恐れが無く、寿命進行のばらつきに対する信頼性は高い。
・ 過充電や過放電に弱く、充放電を管理・制御する機構が必要。
・ エネルギー密度が非常に高く、さらに有機溶媒系電解質なので燃えやすく、扱いを誤れば重大な事故につながる。
(2) リチウムイオン電池のショート発火
原因
・ 製造過程で金属片が混入する。
・ 微細な不純物を起点に結晶化する。
・ 捲回型構造において、熱膨張する。
対策
・ シャットダウンセパレータ(発熱時に電流を遮断する)
・ 安全弁(内圧上昇時に、体積膨張による応力変化を防ぐ)
・ サーミスタ(温度上昇時に抵抗が増加し、電流を減らす)
・ 温度ヒューズ(温度上昇時に電流を遮断する)
・ ラミネート型(熱膨張に柔軟に対応できる)
・ マンガン材料の正極(コバルトよりも結晶構造が崩れにくく、コストダウンにもなる)
(3) 車載バッテリとして
A) 電池ECUによって、充電量が60%になるようにコントロールしている。
@ 充電状態が低いと、出力密度が低下する。
→バッテリ残量が少なすぎると、駆動するためのパワーが足りなくなる。
A 充電状態が高いと、入力密度が低下する。
→バッテリがいっぱいだと、回生されるエネルギーを捨てなければならない。
B) 満充電状態で高温下に放置すると劣化する。
負極にリチウムイオンが全て集まるので、高電圧になって電解質が劣化する。
C) およそ10年で、15万kmのバッテリ寿命を見込んでいる。
個人の年間走行距離など使い方によって、バッテリ寿命が変わる。
D) 電気二重層キャパシタが採用される可能性は低い。
・ 放電とともに、電圧が直線的に降下するので、リチウムイオン電池よりも電圧変動がさらに大きく、昇圧回路が必要となる。
・ リチウムイオン電池の方が、電圧が高いぶん小型化できる。
・ 容量密度が依然として低いので、電気自動車はもちろん、ハイブリッド車としても、燃料電池車としても使いづらい。
実際、ホンダすらも、燃料電池車にウルトラキャパシタを使うのをやめて、リチウムイオン電池を採用している。
(1) モータの種類
@ 誘導電動機
・ 回転子にコイルを使う。
・ 一定速度で最大効率となるようにベクトル制御した場合に、高効率。
・ 構造が簡単で、保守性が高く、安価である。
・ アメリカのメーカーの燃料電池車などに使われている。
A 同期電動機(DCブラシレスモータ)
・ 回転子に永久磁石を使う。
・ 広い速度・トルク領域にわたって行うベクトル制御において、誘導機よりも高効率。
・ 希土類磁石ネオジムを使うので、誘導機のコイル(電磁石)に比べて小型化が可能。
・ 永久磁石を使っているので、高速回転時に発生する逆起電力が高い。弱め界磁制御による効率低下や、インバータへの負担が問題となる。
・ 日本のメーカーのハイブリッド車に使われ、今後も本命である。
(2) モータとエンジン
・ モータは加速性能が良い。
トルク応答がエンジンよりも二桁速い。
最大トルクが低回転で実現できる。
エンジンは、ある程度の回転数がないと、大きいトルクが得られない。
・ モータは冷却・入力の制御など、熱の管理が必要。
モータは熱応答が速く、エンジンは遅い。
・ モータは走行中の効率が高い。
エンジンのエネルギー変換効率が15%なのに対し、モータは80%を超える。
ただし、ガソリンのエネルギー密度はバッテリよりもはるかに高いので、重いバッテリを積んだ電気自動車の総合効率がモータの効率どおりに高くなるわけではない。
(3) 車載モータとして
モータ損失を減らすために、銅線を太くし、かつ、できるだけ巻数を減らさないこと。
A) 電池ECUによって、充電量が60%になるようにコントロールしている。
@ 鉄損:高速回転で発生
A 銅損:低速回転でも発生するので銅損の低減が優先される
B) モータの発熱は監視しなければならない。
ネオジム磁石のキュリー温度は300〜340℃である。
C) モータ駆動の電圧は、高いほうが有利である。
同じ出力・サイズのモータでも、電圧を高くすれば電流は小さくて済むので、コイルの巻き線を細くでき、巻き数を稼げる。
DC-DCコンバータ(直流チョッパ)による昇圧システムを採用しているのは、トヨタ自動車のみだが、これはトヨタ自動車が特許を抑えているからである。
D) IPMでは、リラクタンストルクを利用し、高効率化を図っている。
乗り物用電動機の永久磁石形状は、表面界磁形(SPM)から埋め込み界磁形(IPM)へ進歩している。
それによって磁石がはがれることもなく、リラクタンストルクを利用することもできる。
ただし、対称配置では無いので、トルクリプルが問題となっていた。
エアコンなど家電では、早くからIPMが主流となっている。
E) 巻線構造には分布巻きが採用されるが、集中巻きには小型化できる可能性がある。
@ 集中巻き:空間利用率が大きく、製作が容易
A 分布巻き:出力が安定する
3代目プリウスでは、走行性能に影響の出ない発電機のみ、分布巻きから集中巻きへ移行している。
(1) インバータ制御方式の種類
@ PAM制御
入力電圧そのものを変えることによって、出力電圧を制御する。
ON/OFFをパルスで制御し、希望の周波数を得る。入力電圧の大きさを制御することにより、希望の電圧の振幅を得る。
A PWM制御
電流流通率を変えることによって、出力電圧を制御する。
一定の大きさの入力電圧から、電圧パルスの幅を細かく制御することにより、希望の電圧の振幅・周波数を得る。
IGBTを制御するキャリアの周波数は、一般に5〜20kHz以上である。
制御は複雑になるが、入力電圧を変換するコンバータの必要が無いので、省スペース性を重視したハイブリッド車にはこちらが採用される。
(2) インバータの役割
・ バッテリの直流を交流に変換してモータに供給する。
・ 反対に、モータから回生の交流を直流に変換してバッテリへ返す。
車の消費エネルギーのうち、15%が制動に使われる。
制動に必要なエネルギーのうち、90%は回生を活用し、不足分は油圧で補う。
ただし、走行中の運動エネルギーの大半は、タイヤ―路面間において失われているので、回生率そのものは低い。
・ 周波数を変調し、モータ(同期電動機)の回転数を制御する。
同期電動機の回転子は、回転磁界の周波数と同期して回転する。
・ モータの負荷に応じて、電流を変化させて、トルクを調整する。
入力電力を変えることで、電動機の出力を変える。
・ モータの発熱を監視して、電流を制御する。
・ バッテリの電圧を監視して、電流を制御する。
二次電池はその残量によって電圧が大きく変動するので、電圧のモニタが必要となる。
放電して電圧が低下したら、代わりに電流を高くして入力電力を確保する。
(3) インバータユニットの構成部品
@ IGBT・冷却
ゲート部分はスイッチング時間の短いMOSFET、出力部分は耐電圧の高いpnpトランジスタの構造を採るスイッチングデバイス。
2代目プリウスではインバータの設計最大電流値が130Aとされる。そのため、多数の素子が並列接続され、さらに水冷する構造を採っている。
冷却機構としては、レクサスが両面水冷(デンソー)、シビックがファンによる空冷など、制御する電流量や、スペースなどによって設計思想も変わる。
A 平滑コンデンサ
バッテリ・インバータ間に平滑回路として並列に挿入される。
小型化するためには、静電容量の低減を検討しなければならない。
コンデンサの静電容量を低減した場合の影響・対策は次の通り。
i. 通常時の平滑能力の低下
⇒周波数を高くする
ii. 異常時の電圧上昇時間が短くなる
(システムの異常発生時に、バッテリ側が切り離された場合に、モータからの回生エネルギーがコンデンサに流れ込む)
⇒過電圧保護機能の応答性を速くする