1.電力貯蔵の必要性
2.揚水発電
5.二次電池
@ 鉛蓄電池
A NAS電池
C 亜鉛臭素電池
D ニッケル水素電池
6.フライホイール
1.電力貯蔵の必要性
負荷平準化
昼夜間・季節間によって異なる電力供給を電力貯蔵装置で平準化することで、発電設備の高効率運用が可能となる。電力需要の少ない時に充電し、ピーク時に放電する。夜間電力を利用することにより、電気コストの縮小にも貢献できる。
分散型電源の出力変動補償
風力発電・太陽光発電等の分散型発電設備は、電力供給を負荷変動に追従させる必要があり、電力貯蔵装置によって、出力を安定させる。
系統安定化
出力不安定な風力発電・太陽光発電等の分散型発電設備を系統に連係させた場合に、系統に擾乱が生じることを防ぎ、電力貯蔵装置によって系統電力の品質を維持する。
また、電力貯蔵装置は有効電力と無効電力を自由に制御することができるため、電圧安定度の向上にも貢献することができると考えられる。
変動負荷補償
大きく変動するパルス負荷が存在する場合、電力系統・分散型電源網にある種の動揺を与えるので、電力貯蔵装置によって、その影響を抑える。
周波数調整
電力の需給バランスの時間的偏差が、周波数の変動をきたす。それに対し電力貯蔵装置は、ガバナ制御と同様の変動周期に対して機能することが期待される。
瞬時予備力
不測の事態に備えて待機発電設備の保持が必要だが、現在我が国では通常これに揚水発電が充当されている。
瞬時電圧低下対応
瞬低対策用すなわちUPS用として電力品質を向上するために電力貯蔵装置を利用する。
|
貯蔵形態 |
規模 |
貯蔵効率 |
応答性 |
寿命/サイクル |
実証システム |
揚水発電 |
位置エネルギー |
大中 |
65〜70% |
数分 |
30年 |
30MW×6h |
圧縮空気 |
圧力エネルギー |
大中 |
60〜75% |
十数分 |
30年 |
2MW×4h |
超伝導 |
磁気エネルギー |
大中小 |
80〜90% |
瞬時 |
30年 |
20kW×10s |
鉛蓄電池 |
化学エネルギー |
中小 |
70〜85% |
瞬時 |
15年/1500 |
6MW×8h |
フライホイール |
運動エネルギー |
小 |
70% |
瞬時 |
30年 |
58kWh |
キャパシタ |
電気エネルギー |
小 |
80%? |
瞬時 |
10年/10000 |
数kWh |
2.揚水発電
電力供給側に設置される大規模集中型の電力貯蔵システム。夜間に火力発電などで下池から上池へポンプで揚水するし、ピーク時に水力発電を行う。
負荷平準化用途として使われる。
メリット
1つの装置で大電力をまかなえる。
寿命が長い。
現在すでに確立された技術であり、実績もある。
デメリット
計画から建設までに時間がかかる。
地形や環境保全の観点から、立地条件に制約がある。当然、分散型電源の電力貯蔵としては不向きである。
可変速揚水発電システム
ポンプ水車の揚水時の回転速度を可変して運転することにより、揚水時の電力調整を可能とするとともに、夜間・休日の軽負荷時の周波数調整もできる。実運用されている。
⇔一般的に、電力向けの発電機は系統の周波数に同期して、一定の回転速度で運転されている。
可変速発電電動機の回転子は円筒形で三相分布巻線とした構造をとり、周波数変換器(サイクロコンバータ)によって低周波交流で励磁される。
水車の回転速度に応じた周波数の電流で励磁し、その周波数の調整によって回転子の回転速度を制御する。
回転子の回転速度の変化を補って、固定子には商用周波数の電圧が発生するので、電力系統との同期は保たれる。
研究開発
海水揚水発電:下部調整池の代りに海を利用する。⇒沖縄やんばる海水揚水発電所(30MW)
地下揚水発電:下部調整池を地下に設ける。
3.圧縮空気貯蔵システム(CAES-G/T: Compressed Air Energy Storage Gas Turbine)
夜間にコンプレッサで圧縮した空気を地下空洞・タンクに貯蔵しておき、昼間に燃料とともに燃焼させ、ガスタービンを回して発電する。
貯蔵していた圧縮空気を使用するので、発電時ではタービンの出力がすべて発電に使用される。
⇔通常のガスタービンでは発電出力の一部をコンプレッサの動力に廻す。
したがって、通常のガスタービンに比べて2倍以上の電気出力を得ることができる。
また同じ発電出力を得るために必要な天然ガスや石油などの化石燃料は、逆に約1/3に飾約される。
メリット
揚水発電やLNG複合火力よりコストが低くなる可能性がある。
負荷平準化に有効な技術として、欧米ではすでに実績があり、信頼性が高い。
長寿命。
デメリット
起動・停止に要する時間は20〜30分とやや長い。
構造上、装置が大型化してしまうため、立地条件に制約がある。
日本では比較的軟質岩盤が多いため、地下貯槽の建設が難しい。
岩塩採掘跡の利用
欧米では貯槽用空洞として気密性の高い地下空間を利用し、低コストで建設している。
ドイツのフントルフ発電所(290MW)
アメリカアラバマ州のマッキントッシュ発電所(110MW)
研究開発
日本では、圧縮空気貯槽建設の低コスト化が必要となる。
水封式:硬質岩盤のある場所で地下水の圧力で空気の漏れを防ぐ。⇒神岡鉱山にて実証実験
立て杭方式:軟質岩盤で鋼管を利用し、空洞を建設する。
商用規模として想定される400MWシステム
圧縮空気圧力:40〜60気圧
タンク容量:数十万m3
4.超伝導エネルギー貯蔵システム(SMES: Superconducting Magnetic Energy Storage System)
超伝導コイルで作ったマグネットに、永久電流を流して磁気エネルギーを保存する。コイルに電気抵抗が原理的にゼロである超伝導線を用いて閉ループにすると、電流は損失なく永久に流れ続ける。
貯蔵される電流は直流電流なので、系統連係には交直変換器が必要となる。
冷却機システムと冷却したコイルを保存するクライオスタットが必要となる。
メリット
変換効率が高い。
応答が速い。
デメリット
冷却効率・支持構造物への応力の問題から、装置が大型化してしまうため、立地条件に制約がある。
超伝導コイルや冷却機のコストが高い。
瞬低対策における実績
シャープ亀山工場では、10MJ貯蔵システム(出力10MW)が瞬停補償用として稼働している。
研究開発
低温超電導線に代わる高温超電導線材の開発により、冷却機動力の軽減。
次世代イットリウム系高温超電導線材の長尺化によるコストダウン。
応力を低減させる電磁力平衡コイルの開発。⇒東工大
日光において、小規模20MJ≒5.5kWh級貯蔵システム(出力10MW)の検証
運転温度4K, 電流1350A, 電圧1100V
負荷平準化目的の大規模システムの概念
100MWh貯蔵システム
超伝導コイル:直径数百メートル、100万トン
交流―直流変換システム:サイリスタブリッジ回路
ヘリウム冷凍機:20kW
系統安定化目的の中規模システムの概念
500kWh貯蔵システム
超伝導コイル:直径72メートル、導体電流50kA
交流―直流変換システム:変換器容量100MW
5.二次電池
充電・放電が繰り返し可能な電池のことで、化学反応を利用してエネルギーを貯蔵・放出する。
分散型電源に適し、小容量から大容量まで幅広く実用化されている。
電力貯蔵用二次電池として、鉛蓄電池、レドックスフロー電池、ナトリウム硫黄電池(NAS電池)、亜鉛臭素電池がある。
新型二次電池として、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池などがある。
メリット
技術的に、実用域に達している。
エネルギー密度が高い。
高速応答で容量も大きいため、短周期・長周期成分の抑制に最適。
分散型電源として量産されることによってコストダウンが期待できる。
デメリット
化学反応を伴うので、寿命の面から高サイクルの充放電回数に制約を受ける。
周囲温度の影響が大きい。
@ 鉛蓄電池
負極活物質に鉛、正極活物質に二酸化鉛を用いた、酸性水溶液系電解液の電池。
負荷平準化・非常用電源用途として考えられている。
→放電時:硫酸を消費し水を生成
←充電時:二酸化鉛、鉛が析出
メリット
資源が豊富にあり、低コストで、リサイクル体制も整備されているので、供給安定性が確保できる。
使用実績が多い。
過充電に強い。
デメリット
充放電のエネルギー効率が低い。
鉛は有害物質であるうえ、重い。
過充電時に副反応で水素が発生する。
サイクル寿命の改善が必要。
鉛蓄電池の実績
八戸市マイクログリッド(710kW=ガスエンジン510kW+太陽光180kW+風力20kW)の電力貯蔵として1440kWh容量(100kW出力)
負極活物質に溶融ナトリウム、正極活物質に溶融硫黄を用いた、固体電解質の高温型電池。
活物質の溶融状態を保ち、β’’-アルミナのイオン伝導性を高めるために高温下で使用される。
負荷平準化用途として考えられている。
→放電時:負極ナトリウムイオンが正極へ移動し、多硫化ナトリウムを生成
←充電時:多硫化ナトリウムが分解され、ナトリウムが負極に戻る
メリット
エネルギー密度が高く、小型化が可能。
固体電解質なので自己放電がなく、充放電のエネルギー効率も高いため、貯蔵効率が高い。
固体電解質なので耐久性が高く、長寿命。
デメリット
高温型電池なので、保温が必要。
高温作動のため、監視・運転員が必要。
NAS電池の実績
六ヶ所村ウィンドファーム(50MW)の電力貯蔵として244.8MWh容量(34MW出力)
研究開発
高イオン伝導性セラミクスの開発。
使用済みNAS電池から高純度のナトリウムを精製・回収する研究。
正負極活物質ともにバナジウムを用いた、酸性水溶液系電解液のフロー型電池。
バナジウムの価数が変わることにより充放電される。
電極反応を行う電池セルと、電解液を貯蔵するタンクが分離され、セル内をポンプによって電解液が循環される。
非常用電源用途として考えられている。
→放電時:負極で三価イオンが増加・正極で四価イオンが増加
電子は負荷を通って正極へ・水素イオンはイオン交換膜をとおって正極へ
←充電時:負極で二価イオンが増加・正極で五価イオンが増加
電子は充電装置を通って負極へ・水素イオンはイオン交換膜をとおって負極へ
メリット
セルスタックと電解液タンクを分離できるので、設置レイアウトの自由度が高い。
設計上、タンク容量を増やせば、電池貯蔵量も容易に増やせる。
電解液の起電力を測定することにより、充電状態をモニター可能。
安価な廃バナジウムを利用できるので、リサイクルが容易。
耐久性に優れる。
デメリット
補機が必要な分、効率が低い。
自己放電が発生する。
過充電時に副反応として水素が発生する。
ポンプ等補機の監視が必要。
バナジウム系レドックスフロー電池の実績
苫前ウィンドファーム(30MW)の電力貯蔵として6MWh容量(4MW出力)
研究開発
イオン交換膜の耐久性について検討が行われている。
C 亜鉛臭素電池
負極活物質に亜鉛、正極活物質に臭素を用いた、水溶液系電解液のフロー型電池。
電極反応を行う電池セルと、電解液を貯蔵するタンクが分離され、ポンプで循環させる。
→放電時:負極で亜鉛イオンが溶解・正極で臭素がイオン化
←充電時:負極で亜鉛が析出・正極で臭素の錯化合物生成
メリット
エネルギー密度が高く、小型化が可能。
構造材に安価な汎用プラスティックを使用するため、大量生産向きで、低コスト。
デメリット
補機が必要な分、効率が低い。
電解液に毒性があるため、管理が必要。
自己放電が発生する。
過充電時に副反応として水素が発生する。
ポンプ等補機の監視が必要。
現在稼働しているシステムは無い。
D ニッケル水素電池
正極活物質にニッケル酸化物、負極活物質に水素吸蔵合金を用いた、アルカリ性水溶液系電解液の電池。
メカニズムとしては、水素イオンの移動として表現でき、電解液は活物質と反応しない。
電力品質用途として考えられている。
→放電時:水素吸蔵合金負極から水素イオンが放出され、ニッケル正極に吸蔵される
←充電時:ニッケル正極から水素イオンが放出され、水素吸蔵合金負極に吸蔵される
メリット
エネルギー密度が高く、小型化設備に適する。
充放電エネルギー効率が比較的高い。
急速充放電が可能。
過充電・過放電に強い。
デメリット
自己放電が比較的大きい。
満充電時に大きな発熱を伴う。
水素吸蔵合金のコストが高い。
時間耐久性の向上が必要。
過充電時に副反応として水素が発生する。
研究開発
負極材料の高密度充填化。
正極への添加物による利用率・信頼性の向上。
電解液への添加物による耐久性の向上。
セパレータの薄膜化による小型化。
正極活物質にコバルト酸リチウム、負極活物質に炭素材料を用いた、有機溶媒系電解液の電池。
リチウムイオンが正負極間を可逆的に移動し、電解液は起電反応に関与しない。
電力品質用途として考えられている。
→放電時:炭素負極からリチウムイオンが放出され、コバルト正極に吸蔵される
←充電時:コバルト正極からリチウムイオンが放出され、炭素負極に吸蔵される
メリット
エネルギー密度が高く、小型化設備に適する。
充放電エネルギー効率が極めて高い。
急速充放電が可能。
出力密度が高い。
自己放電が小さい。
時間耐久性の向上が必要。
デメリット
過充電・過放電に弱いので、単セルごとの監視・保護回路が必要。
有機溶媒は可燃性であるため、安全性の確保が必要。
電池材料のコストが高い。
研究開発
コスト・資源的制約による、コバルト以外のレアメタルを組み合わせた正極材料開発。
マンガン系正極の高温での容量減少を抑制。
ポリマー正極による高容量化。
炭素系材料の複合化による高容量化。
合金・金属リチウム負極材料による高容量化。
難燃性電解液や高耐電圧電解液の開発。
6.フライホイール(はずみ車)
円盤回転速度の増減によって、エネルギーの入出力を行う。
フライホイール・軸受・真空容器・真空ポンプ・発電電動機・インバーターから構成される。
平準化よりも負荷変動用途として、小型システムについては実用化されている。
メリット
電池のような劣化や腐食がないので寿命が長い。
エネルギー密度が高い。
周囲温度の影響が少ない。
短時間の充放電の繰り返しに強い。
高速応答であるため、短周期・微小成分の安定化に最適。
デメリット
現状の機械式軸受けは回転損失が大きく、停電補償時間が1分程度と短い。
超伝導フライホイールは技術的に未完成。
フライホイールの実績
沖縄電力にて210MJ≒58kWh機(出力26.5MW)が運転中。
超高速フライホイール100kW30秒機,200kW40秒機が実用化ずみ。
世界最大規模として、核融合研究用1300MJフライホイール付き発電機が稼働している。
研究開発
真空ポンプを使わず、ヘリウム混合空気による空損の減少の研究。
12.5kWh級高温超電導フライホイールシステムの開発。
永久磁石を埋め込んだ円板と,それを支える高温超電導軸受による引力を利用するため、非接触で回転損失が少ない軸受が可能となる。真空中で回転させれば、原理的には回転損失がゼロとなり,長時間のエネルギー貯蔵が可能となる。
高温超電導フライホイールシステムの大型化。将来的に100kWh級システム。
7.電気二重層キャパシタ(EDLC)
電荷の吸着・脱離によって充電・放電を行うので、電気を化学反応なしに、電気エネルギーとして貯蔵できる。
出力密度の大きさを活かした、負荷変動用途として用いられる。
メリット
化学反応を伴わないので繰り返し充放電に強い。従ってサイクル寿命が長い。
充放電効率が高い。
充電時間が短い。
高速応答可能であるため、微小変動分の抑制に最適。
重金属を含まないので、環境負荷が小さい。
デメリット
エネルギー密度が小さい。
コストが高い。
勾配が急な電圧特性を示す。
研究開発
高エネルギー密度志向の開発(40Wh/kg)。
大出力密度志向の開発(1500W/kg)。
活性炭を使わない“ナノゲートカーボン”による大容量化技術開発。
液体と同程度のイオン伝導性を有する固体電解質“ナノハイブリッド型電解質”による高耐電圧化技術開発。
活性炭に替わる電極材料として、金属酸化物や導電性高分子等を利用した疑似キャパシタ“レドックスキャパシタ・シュードキャパシタ”の研究。